第5章 闇夜の調べ
「おい、話を逸らすな!」
また強くハイデスさんがルシスさんを責める中、自分から視線が逸らされた事にホッとしたエルメスさんが気付かれないように、深いため息を吐いた。
「はいはい、分かりました。では彼らを一度部屋から出してください。いくら静かにしていても、こうも囲まれていては私とて緊張してしまいます。」
「おい、ルシス!貴様そんなタマではないだろう?!おい、お前ら、そこを動くな。これは命令だ。」
「いやですねぇ……ここは私の屋敷ですよ?私の言葉を優先してくれてもいいではありませんか。」
「それが普段人の屋敷で好き勝手してくれる奴の言う言葉か?お前ら、絶対に動くんじゃないぞ。」
やれやれと言った様子のルシスさんと、やはり気に喰わないと吠えるハイデスさん。そうした二人に見事に巻き込まれている隊のメンバーの顔が次第に青ざめていくのを、私は順番に見ながら何だかとても申し訳なくなってきた。
「あ、えっと……なんか、すみません…、」
「おやおや、アンリ、貴女が謝る必要は何一つ無いのですよ?申し訳ありません、怖がらせてしまいましたね。」
思わず口に出てしまった謝罪の言葉に、一早く反応したのはルシスさんで、私を見ると何故か楽しそうに笑った。ニコリと優しい笑顔を向けられ、私も思わす笑い返してしまったのだが、その瞬間視界が動いたことに気が付くのが一瞬遅れた。
気が付くと私はルシスさんの腕の中で、あろうことか所謂お姫様抱っこの体勢で今この部屋の全員の視線を浴びていた。
「おい!?ルシス何をしている!!?」
焦ったハイデスさんがルシスさんの背を追おうとするも、何故かその場から動けない様子であった。
「ここは空気が悪いですから、私と外の空気でも吸いに行きましょうか。それに、ほら、今日は色々ありましたから、もう疲れたでしょう?ゆっくり休みましょうね。」
「待てルシス!人の話を聞け!やめろアンリを連れていくのだけはやめてくれ!!」
「フフフ、嫌です。……では皆さん、ごゆっくり。」
叫ぶハイデスさんに、ルシスさんはちらと振り返って視線を合わせれば、口元にそれは綺麗な弧を描かせ笑う。そうして、酷く丁寧に退室の言葉を告げれば黒い光と共に私とルシスさんはハイデスさん達のいる部屋からあっという間に消えてしまったのだった。