第5章 闇夜の調べ
「嫌ですねぇ、いつものことではありませんか。私はそういう言い回ししか出来ないのです。」
ハイデスさんの強い言葉に、さして気にした素振りも無く飄々と受け流すルシスさんに、私は静かに向き合った。何だか、今この瞬間に、私は自分の思っている気持ちを伝えた方がいいと、そう思ったからだ。
「……ルシスさん、あの…。」
「はい、なんでしょう。」
急に、改まった様子で向き合う私に、ルシスさんも真っすぐに私の事を見てくれる。その事に、何だかとても安心している自分が居た。少しだけ深呼吸して、なるべく真剣で、でも、固くなり過ぎないようにと、ゆっくりと声を出した。
「私は、ルシスさんのこと…信じてます。」
「………。」
そんな私に、何故か黙り込んでしまったルシスさんに、急に不安になりながらも、私はじっとその綺麗な漆黒の、その優しい瞳を見詰め続けた。
「おい、なんとか言ったらどうだ。」
そんな私よりも早く、隣でハイデスさんがルシスさんを捲し立てる様に返事を求める。一瞬下を向いて髪を搔き上げたルシスさんが、何故か酷く困ったと言葉を濁しながら私を見ると、そのまま立ち上がった。
「……あぁもう、本当に……困りましたねぇ…。貴女のその目で見詰められると、流石の私もどうにも……。」
「ルシス、逃げるなよ。」
立ち上がったルシスさんを警戒したハイデスさんだったが、当の本人はそんな言葉なんて聞こえてないとでも言うように視線を動かすと、それはエルメスさんの位置でピタと止まった。
「……エルメス、何ですかその顔は。」
「え?!い、いやっその…自分は、何も……、!」
今、目の前で見せられている出来事に何かしらの感情を口の中を奥歯で嚙むように、堪えるような表情をしていたエルメスさんが、急に向けられるルシスさんからの鋭い視線に飛び上がる程に驚いて、しどろもどろの言い訳をした。だが、あまりにも急すぎて周りの他のメンバーですら真剣な表情を崩す一歩手前である。
ここで無駄な音一つ立たせたのならばどうなることか分かったものでは無いと言いたげな彼らを救ったのは相変わらず唯一ルシスさんの言葉に喰い付くハイデスさんだ。