第5章 闇夜の調べ
「……はぁ、困ります。まったく、そんな目で見ないでください。どうにも私は貴女のその瞳に弱いようで……そうですね、ええ。そうですよ。ハイデスの言葉は強ち嘘ではありません。ですが、語弊があります。」
思わず、じっとルシスさんの方を見てしまっていた。そこには、困ったような色をした漆黒の瞳があった。
「と、いうと?」
「本来ならもっと早くに軍が介入する手筈で動いておりました。貴女がまだ奴の毒に犯されていた時です。私はそれを遅らせたのですよ。」
「……それらも全てお前が仕込んだ事だろう。例え真実であろうと信用は出来ない。」
訳を話すルシスさんに、それでも信用ならないとハイデスさんは睨んだ。
「え、えっと……でも、今回はそのお陰で私は助かったってことでいいんですよね?」
「まぁ、確かにそうだが…。でもアンリ、どこまでが本当で、どこまでが嘘を言っているのかさえ分からないんだぞ?」
余程ハイデスさんはルシスさんの事が信用ならないのだろう。その事は良く分かったが、私はそれが何故なのか分からなかった。しかし、そうして続けられるルシスさんへの疑惑に思わず驚いた眼を向けてしまう。
だって、最初こそ少し怖い人かもしれないと思ったが、それからは私にとって優しい人でしかなかったからだ。それこそ、私は嘘だと思いたかった。
「えっ、ルシスさん……嘘ついてるんですか、?」
「……嘘はついておりませんよ。貴女を悪意の元に騙すような事は一度としてしておりません、勿論ですとも。」
「その、嘘は、とはなんだ。お前のそういうところが私は信用ならないと言っているんだ!」
少しの間はあったものの、ハッキリとその言葉を否定してくれるルシスさんに私はほっと胸を撫で下ろした。しかし、ハイデスさんはやはりそれでも信用ならないと声を上げる。