第2章 1 箱庭
冷たい。
ひんやりとした心地よさで目が覚める。
「……ここは?」
白い石造りの空間に私の声だけが響いた。
一面大理石で作られたかのような空間。
廃墟、だろうか。ところどころ崩れた建物の中には木漏れ日のように光が差し込む。
しかし、汚れなど一切感じさせないほどの白、白、白。
そんな現実離れした空間に、ああ、これはきっと夢なんだなと笑った。
だって、おかしいじゃないか。さっきまで確か私は…
そう考えて涙が零れてきた。
そう、さっきまで私は赤い赤い夕陽を見ながら歩いていた。
全てから逃げ出して。
仕事も、家も、すべて投げ出して逃げた。
帰る場所なんて無かったから、もういいじゃないかと逃げ出してきたんだ。
きっとこのまま私がいなくなってしまっても何も問題はないと。
だから、きっとカミサマが御手を差し伸べてくれたんだ。
きっとあのままでは何も変えられることなくまた同じ日常を繰り返していたから。
溢れる涙は後悔ではない。ただ、疲れてしまっただけなんだ。
たった一人、真っ白な空間でぐしゃぐしゃに泣きながら、夢ならば覚めないでと、声を出して私は泣いた。
冷たい床に涙が吸い込まれていく。瞬間的に乾いてはまた濡れて、そして吸い込まれていく。
涙なんて忘れさせるかのように、消えていく。
ずっと、ひたすらにこの部屋は真っ白で美しかった。
泣きつかれて横になると、隙間から遠い空が見える。
澄んだ青い空だ。
ここがどこなのか、これからどうするのか、そんなことは後で考えればいい。
そう思いながらゆっくりと瞼を閉じた。