第5章 闇夜の調べ
「やめろ、必要ない。私自身の身体は私が一番分かっている。それにもう、ここにも用はないだろう……さあ、もう大丈夫だから、アンリ、帰ろう?」
そう言って差し出されるハイデスさんの手を、私は素直に取れなかった。さっきの今で、ここから屋敷に帰ることすら心配になってしまうハイデスさんの様子に、私は不安になって目を向けた。
「、ハイデスさん……やっぱり、まだ体調良くないんですか?この前も、…」
「大丈夫だよ、アンリ。少し疲れただけだ。何も心配はいらないよ。」
その表情は、いつもと変わらない笑顔の筈なのに、酷く苦し気に見える。私としてはまだ休んでいて欲しい。でも、何と言えば納得してくれるのか分からなかった。
どうしよう、と悩んでいれば、不意に背後からハイデスさんの手を遮るものがあった。
「やめた方がいい。まだ監視されている筈です。ハイデス、お前も少し休んだ方がいいでしょう。」
「ルシス……」
まるでタイミングを見計らったかのように入ってくるルシスさんに、一同が気まずそうにする。そんな中で相変わらずハイデスさんだけが、ルシスさんを鋭く睨み付けていた。
「お前はまだ魔力が安定するのに時間がかかるでしょう。それまで大人しくしているのが賢明ですよ。」
「うるさい。私に指図するなと言っているだろう。」
「全く、私はお前の事を思って言って差し上げてるのですがねぇ。そんなにもフラフラの身体で吠えたところで何が出来るのだというのですか?何をするにしろ、もっと体勢を整えてからにしなさい。」
やっぱり、ハイデスさんは体調が良くなかったのだと、ルシスさんの言葉から察する。
そしてルシスさんのその言葉に、何かを言いたそうにしているのは私だけでは無い様で、隊のメンバーもどこかしら気になったところがあったのか、何とも言えない空気を感じる。だがしかし、そんなことを声に出せる人物などこの空間には存在しなかった。
「ハイデスさん……あの、でも少し休んだ方が…。」
でも私は、そんなハイデスさんに声を掛けずにはいられなかった。ここのところ、私はハイデスさんとまるで擦れ違うような日々を送っていた為、どこか悪いのであればその原因を知りたいと思うし、何よりも心配だったからだ。