第5章 闇夜の調べ
「お前、さっきからそればっかだが……んなこと言うなら、もうとっくにアンリちゃん取られてると思うぜ?何であの人がこんなに回りくどい事をする必要がある?」
「確かに、そうかもしれないが……」
「今明らかにアンリちゃんを狙ってんのは城だろう。今回の件、かなり綿密に計画された事だろうよ。陛下の言葉も、今思い返せば引っかかるところがいくつかある。モルゲン導師がその城とどのくらい絡んでるのか知らねぇが、俺は組んでないと思うぜ?」
「ならば学園か?でもあそここそ、わざわざ天女を欲しがる理由も無いだろう。もうすでに一人いるんだ。」
「…まぁ、いるっつうか、ある、だけどな。」
「しかも今代の理事長はあの結界の術式の解読に成功したというじゃないか。ならば尚更天女を欲しがる理由が分からない。」
ハイデスさんとエルメスさんが話している内容がいまいち、いや、ほぼ理解出来ていないので二人の顔をきょろきょろと見てしまう。カールさんやジェーンさんは話に入るどころか、寧ろ聞いていない素振りをしているので、これはきっと私が詳しく聞いていい話では無いのだろうなと思ってはぼんやりと窓の方を見ていた。
「まーたしかに、中に入れるんなら髪の毛の1本や2本取れるもんな。」
「だが、そうとはいえ、こんな場所にアンリを置いていくだなんて、私は納得がいかない。」
「納得って言ったって、どうしようもねぇだろ?アンリちゃんを、天女を王が探しているのは確かなんだ。またいつ軍をけしかけられるかわかんねぇぞ?」
「そんなことは分かっている!だがっ、……」
ぼんやりと会話の音だけを聞き流していた私だが、会話の雲行きが怪しくなってきたことの思わず視線を向けていた。そのくらい、ハイデスさんが強い口調で発した言葉に皆が私と同じように視線をハイデスさんに向けたのだが、丁度その瞬間、急にぐらりとハイデスさんが体勢を崩したのだ。
「ちょっ、ハイデスお前……まじで大丈夫なのかよ。おい、ヨアヒム、こいつ今朝から可笑しいんだ。見てやってくれ。」
突然のことにびっくりしてしまって、私は目の前で倒れそうになるハイデスさんを急いで支えるヨアヒムさんをおろおろと見ていることしか出来なかった。
しかしハイデスさんは、魔力の様子を見ようと額に手を当てるヨアヒムさんの手を払い退けた。