第5章 闇夜の調べ
ルシスさんからの問い掛けに、思わず答えてしまった私だったが、ハイデスさんの不服そうな顔に思わず尻すぼみする。
その時丁度ヴァルターさんがルシスさんを呼んだ。
「…申し訳ありません、一度退室致します。ハイデス、まだアンリ嬢を帰らせるんじゃありませんよ。わかりましたね?」
「何故貴様にそのことを指図されなくてはならない。私が決める事だろう!」
ルシスさんの言葉に吠えるハイデスさんだが、間に入るようにエルメスさんがハイデスさんを見た。
「…おい、ハイデス。帰る帰らないは今すぐ決めなくともいいんじゃねぇか?そんな事より、何があったか教えてくれよ。ただ事じゃねぇってことだけは俺らも理解してんだ。」
確かに、私自身も今日何があったのか、よく理解出来ていないのだ。知りたいと思うが、聞いても大丈夫な話なのかと心配になる。
でも、その気持ちはどうやら私だけでは無い様で、ここにいるシュバルツの方々も複雑そうな表情をしている。ルシスさんが出て行ったドアの音が妙にこの部屋に響く。
そんな中で、ハイデスさんは何かを言おうとしたが、そのまま口を閉ざしてしまった。
「、あ~、隊長。言いたくねぇってのは良く分かりました。無理にとは言いませんし、それに、俺ら聞かねぇ方がいいんならこのまま退場しますぜ?」
「ヨアヒム……お前、あの現場に居合わせてるのを第一騎士団に見られてるんだぞ?聞いてねぇが通用すると思ってんのか?」
エルメスさんが、ヨアヒムさん、というのだろう。少し緩そうな話し方をする、癖のある髪の人に向かって眉を顰める。
「だとしても、本当に知ってんのか、知らないのかってのは天と地程違いますぜ。例え頭ん中覗かれようが、知らねぇもんは出て来やしません。」
「まぁ、確かにそうだが……。俺は今回の事をどうしても無視出来ねぇんだ。なぁ、ハイデス、頼む教えてくれ。一体何があったんだ?」
私はこのまま聞いてもいいのかな。どうしよう、とハイデスさんを見れば、その視線に気が付いたハイデスさんが私を見て、小さく笑う。その表情は、何だか苦しそうに見えた。