第5章 闇夜の調べ
人口密度が上がっている気配しかないのに、一向に離れてくれる気配のないハイデスさんにどうすればいいのかと、何とか視線を横に流せば、見知った人と目が合った。
「ハハ、相変わらずだなぁハイデス。よう、アンリちゃん、さっきぶりだな。無事みたいで俺も安心したよ。」
絶妙な体勢だというのに気にも留めない様子で話しかけて来るのはエルメスさんだった。
「エ、エルメスさん…あの、心配してくれて、ありがとうございます…。」
もはや良く分からない心境であるが、一応お礼を言っておく。
「お~い、ハイデス。アンリちゃん困ってるから、その辺にしておいてやれ。俺らもどうすりゃいいか分かんねぇからよ。」
「……分かっている。」
一言そう言うと、ハイデスさんがゆっくりと離れ、でもその顔は何とも複雑な表情を浮かべていた。
「、ハイデスさん…?」
「あ、いや……なんでもない。とにかく、君の無事が確認出来て良かった。屋敷の方は何ともない、ジェイドも無事だ。」
「!!本当ですか?!よかったぁ…それだけが心配で…私…。」
ジェイドさんの無事を聞いて、心から安堵した。本当に、屋敷で何があったか分からない私は不安で仕方が無かったが、きっと大丈夫だと信じていた。
「もう大丈夫だよ、アンリ……だから、帰ろう。おいルシス、あのメイドはまだ借りられるのだろう?」
「……ええ。そう指示しましたからね。ですがハイデス、アンリ嬢を屋敷へ帰らせる判断はあまり賢明とは言えませんよ。」
勝手に今日はルシスさんのお屋敷でお世話になると思っていた私はハイデスさんの言葉に少し驚いた。そしてルシスさんも今日あった出来事を危惧してか、あまりいい顔をしていない。
「だとしても、こんなところにアンリを置いておく訳にはいかない。」
「こんなところだなんて酷いですねぇ……精一杯おもてなしさせて頂いているというのに。ねぇ、アンリ嬢?」
「え、あっはい!とても、良くして頂いて……、」