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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ



「ご、ごめんなさい……上手く、言えないです。」

そう言って振り返ったところで、私は心臓が飛び上がるかと思った。

「おやおや、教えては下さらないのですか?残念ですねぇ……貴女が私をどのように見てくださっているのか、とても興味があったというのに…。」

そこには、にこにこと笑ってこちらを見るルシスさんが居た。

「な、お師匠様?!」

「っ、お疲れ様で御座います!こちらご命令通り何事もなく、無事お屋敷までアンリ様をお連れ致しました。」

「ええ、そのようですね。ご苦労様です。」

カールさんもジェーンさんも、かなり驚いた表情をしているので、二人もルシスさんがこの部屋に入ってきたことに気が付かなかったのだろう。
だが、すぐにその後ろでヴァルターさんが開いた扉から見慣れた、私を酷く安心させるその人が現れた。

「アンリ!!すまない、遅くなった……大丈夫かい?何も無かったか?」

駆けるように私の前に現れては、手を取ってその大きな胸の中に閉じ込められる。

「ハ、ハイデスさん…!あの、大丈夫です、本当に、私は何も…」

「あぁ、何もなくて良かった……本当に良かったよ。」

ぎゅうぎゅうと私を抱き締めるハイデスさんは、隊の服のままで髪も乱れたままだった。でも、あの日、私が目覚めてから、私はハイデスさんの目を初めてちゃんと見た気がした。
久々に、ハイデスさんと向き合った気がする。

でも、今この場というのも少し気まずい。生憎視界はハイデスさんで遮られているが、少なくともカールさんとジェーンさん、ルシスさんまでそこにいる筈だ。流石にいつまでもこうされていては親子の感動の再開とは言えなくなってくるだろう。
この場に、私たちを正しく親子として認識している人がいったい何人いるのかという事は分からないが。

ど、どうしよう。離れた方がいいよなと思っていれば、入口の方からピュウと煽る様な口笛が聞こえた。

「おんやまぁ、噂以上だねぇこりゃ……いいもん見させてもらいましたわ。」

「カール、ジェーン、ご苦労だった。何事も無かったようで何より。」

「…お、おう。お前に心配されるような俺じゃねぇよ。」
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