第5章 闇夜の調べ
そういえば、ルシスさんのお城へ行くとなった時、ジェーンさんは嬉しそうであったが、カールさんは顔を青くさせていたのを思い出した。
「何か、あるんですか?」
「いえ……えっと…ほら、あの御方の住む場所ですから。誰しも最初は尻込みしてしまいます。人を招いたということも聞いたことがありませんでしたから、尚更。」
なるほど、そういうものかと思っていながらも、先程以上に緊張しながら他のメイドさん達の出迎えを受けるジェーンさんに、そんなに緊張しなくちゃいけない所だったのかと少しだけ反省した。
私、遊びに行かせてもらえるくらいの感覚で来ちゃったもんなぁとルシスさんに招かれた初日を思い出す。それと同時に、静かに、けれど迅速に私をルシスさんの元へ送り出したジェイドさんの事がやはり気になってしまう。
あの時にはもう、ジェイドさんは今日の事を知らされていて、私が何も知らずにルシスさんにお茶をご馳走になっている時ですら、きっと色々な対応に追われていたんだろうなと思った。
どうか無事でいて欲しいと、その思いと同時に、今度会った時には目一杯お礼を伝えようと心に決めた。
気が付けば、もう空が赤く色付いて、傾いた日が落ちかけている。
同じ空を見ている筈なのに、昨日と今日でこうも違うものかと思うと、何だか急に身体が重たく感じる。
疲れたなぁ、なんて思っていればお風呂を進められる。いつもの時間よりは随分早いが、正直かなり嬉しい気遣い気遣いだった。
しかし、そんな私一人だけ、と思うもジェーンさんににこやかに背中を押されてしまったので私は何ともゆったりとした時間を過ごしてしまった。流石にジェーンさんやカールさんが居る中で寝間着に着替えるのは恥ずかしかったので、緩めのモーニングドレスにしてもらった。
「すみません…こんな、大変な時に、私ばかりゆっくりしてしまって……。」
「いえ、私共は何とも御座いませんから。一番お疲れになっているのはアンリ様でしょう?まだお師匠様と隊長が戻られるまでは気持ちが安らぐことはないでしょうが、どうかお身体だけでも休まれて下さい。」
ジェーンさんはそういうとにっこりとほほ笑んだ。ルシスさんのお屋敷に着いたすぐはかなり落ち着かない様子だったが、もう大丈夫みたいだ。