第5章 闇夜の調べ
「そう、ですね……本当に、冷静でいなくてはと思ってはいるのですが…。初めは、あの方への恐怖心を克服しようと必死になっていたのですが、気が付いたらこのように……。」
「でも、分かりますよ。だってルシスさん、本当にかっこいいですもん。」
「、!ですよね?……そうですよね??」
急に目が輝き出したジェーンさん。これは恋する乙女なのでは?と尚更私は可笑しくなった。
「ふふ、そうですよ?あんなに強くて、綺麗で、かっこいい人、きっとそういません。ただ、それに気が付くよりも、皆さんは怖いって感情が先に出ちゃうんだろうなぁ……。本当は、すごく優しいのに。」
「あ、あの……そのお話、詳しく伺ってもよろしいでしょうか…?」
いいですよ。そう言おうとした時、丁度部屋の扉が叩かれた。
「アンリちゃん、ジェーン!師匠のとこのバトラーが今丁度着いたから、そろそろ出る準備頼みます。」
「あ、ヴァルターさんが来てくれたみたいですね……じゃあ、この話はまた後でしましょうか。」
笑って言うと、少し気まずそうにしたジェーンさんが嬉しそうにうなづいた。
そうして私とのジェーンさんが馬車の中へ。ヴァルターさんとカールさんが手綱を握る形で乗り込むと、静かに城を後にした。
終始緊張した様子のジェーンさんに、それでも私の気を紛らわせようと他愛のない会話を繋げてくれる姿はとても心地よかった。
そういえば、女性とこんなにも会話をしたのは久しぶり、というより最早初めてに近いことを思い出してなんだか少し感動すらした。確かにちょっと変わってはいるけれど、頼りになるお姉さんといった雰囲気のジェーンさんの存在に私は嬉しくなりながら、王都からルシスさんのお城までの道のりを比較的落ち着いた気持ちでいられることが出来たのだった。
そうしているうちに辿り着いたルシスさんのお城は相変わらず迫力があって、少し雲行きが怪しくなってきた空模様も相まってちょっとだけ怖く感じた。
「ここが……あの…。」
ごくりと息を呑むようにして言ったカールさんに、私の手を引いてくれるジェーンさんが静かに窘めた。
「カール、無駄口は叩くんじゃありません。ほら、早くヴァルター殿の手伝いをしてきてください。」