第5章 闇夜の調べ
ルシスさんが去っていったこの黒魔術師団の演習場で、時が止まったかのように立ち尽くしていた私を含むこの場所の人達が、ふと我に返ったかのように一斉に動き出す。
ざわざわと、少しの慌ただしさの中で、私はジェーンさんに建物の中に案内されていた。
ハイデスさんの部屋だというそこでお茶を出されながら、ルシスさんの執事であるヴァルターさんの迎えを待っている。
ジェーンさんは、先程の件で、主にルシスさんについてだろうが色々と聞きたいことがあるのだろう。時折視線を感じて、何か言おうとするような素振りを見せるのだが、躊躇ってそれ以上言わなかった。
今起きていることに対しての私の気持ちを優先してくれているのだろう。
カールさんは外の騎士団の人達に何やら支持をしに出ていってしまった。
何かしていなくては、屋敷へ向かった軍の事が気になってしまう。とはいえ、何もすることがないし、私に出来ることと言ったら信じることしかないのだ。
ジェーンさんは、護衛のようにソファに座る私の隣に立ったままだ。何となくこのまま無言というのも気まずいし、何より黙っていたことも悪いと思ったので先程のルシスさんの事を私は自分から切り出した。
「ジェーンさん、あの……すみません、ルシスさんのこと、黙っていて…。」
「え、?あっ……いえ、アンリ様が謝るようなことでは……確かに、その、まさか……あのようなお姿でずっといらっしゃったとは、正直私も全く気付くことが出来ませんでしたし、驚きはしましたが…。」
私から話をふったことに驚いたのだろう。少しどぎまぎしながら言葉を選ぶジェーンさんだが、どこか興奮が隠せてない様子に少しだけ笑ってしまう。
「ジェーンさんは、本当にルシスさんの事となると人が変わったようになりますね。」
思わず口を出た言葉に、恥ずかしそうにするジェーンさんが何だか可愛らしかった。