第5章 闇夜の調べ
「いや、外部の者がいない限り、私の前でその姿はやめてくれ。」
「畏まりました。」
ルシスの言いつけだとは言っても、ハイデスの意思を優先するあたり、このカミラというメイドは然程機械的に物事を処理するタイプでもないのだなとハイデスは少し安心した。
「聞いても良いか?」
「はい、もちろんでございます。」
「……アンリの身代りだが、いつまで頼める?」
「求められるまでは。」
頼もしい答えにハイデスは安堵するが、唯でさえ信用していないルシスの使用人を屋敷に置いておくなどと悩みもする。しかし、この先アンリ自身もルシスの元に行ってしまうのだから、今更何も変わらないのかもしれないと、今この現実に熟考することにすら目を背けてしまいそうだ。
「では、最後に一つ……何故、魔力を隠せる?」
「……私は、もとより魔力を持たない平民でした。ですので、ルシス様がその時に近い状態に戻しただけでございます。」
少しだけ躊躇われて告げられる言葉に、ハイデスは耳を疑った。ハイデスに伝えるという事は、知られてもいいとルシスから言われているのだろうが、だとしても信じられなかった。
目の前のこの女は、言わば奴のモルモットという事なのだろうかとハイデスは思わず絶句した。これ以上深入りしてはいけないと、カミラから視線を離す。
「そ、そうか、すまないな。ジェイド、あとは頼む。私はルシスの元へ行ってくる。」
「畏まりました。どうかお気をつけて……あと、お嬢様によろしくお伝えください。」
ああ、と最低限の言葉だけ残せば、空気を読んで部屋の外にいたエルメスと視線を合わせる。
「……なぁ、どういうことだ?俺、昼間にモルゲン導師といるアンリちゃんを見たぜ?ありゃ、誰だ?アンリちゃんじゃねぇだろう。」
「それも、後で話す。今はルシスの屋敷へ向かうのが先だ。それとアリアスとヨアヒム以外は城に戻す。」