第5章 闇夜の調べ
「お初にお目に掛かります。わたくし、ルシス様に遣えさせております、カミラと申します。あの城でメイド長を務めさせて頂いております。」
淡々とした声だった。
ルシスが寄越したアンリの影武者は、ルシスの屋敷のメイドだという。まさか自分のメイドを寄越すとは、と思ったが、確かにあの屋敷には陰ながら噂される召使が何人かいたような記憶がある。だが、それも古い時代を知る者たちしか知りえない事なので、例え己の師であろうと、あの城の内部はハイデスも詳しくは知らなかった。
ハイデスはカミラと言ったメイドをまじまじと見る。ヤツ従者のは初めてだが、表情はなくまるで人形のようだ。しかしアンリらしさを演じている時の姿は良くできていて、逆に気分が悪いくらいだとハイデスは感じた。
絶妙に気まずい空気が流れる中で、丁度ジェイドが戻ってきた。
「失礼致します。第一騎士団の方々は全てお引き取り願いました。屋敷の部屋と使用人全ての確認をしたら不満そうに帰られました。」
「あぁ、そうか、ご苦労だった。」
そうして、何とも言えない緊張した表情でジェイドがハイデスと、アンリの姿をしたカミラを見た。
「……話はルシスから聞いた。ジェイド、お前はどこから聞かされていた?」
「3日前の朝、ルシス様がお嬢様をご自身のお屋敷へとお誘いに参られました。その時に、今回の事を。」
「そうか。……カミラと言ったな。ルシスからどのような命を受けている?」
「クロヴィス様のお屋敷へ向かいアンリお嬢様の姿を模し、抵抗、反撃一切許さず全ての事の身代りになれと。」
ハイデスの問い掛けにカミラは淡々と答えるが、その内容はかなりの無茶を要するものであった為に流石のハイデスも少し動揺した。
「……そ、そうか。ご苦労だった。礼が遅れてすまない……助かった。」
「いえ、わたくしへ、その様な言葉は無用で御座います。」
「そうか。……その、姿だが、戻って良いぞ。」
「ルシス様には、事が済むまでお嬢様の姿を模すようにと仰せつかっておりますが、如何致しましょうか。」
ハイデスは、アンリの姿をした人間が、全く彼女とは似つかない表情で自分と話をされるのが、不快とまではいかないが、居心地が悪くてしょうがなかった。