第5章 闇夜の調べ
大きな口髭を蓄えて、一際偉そうな口ぶりで叫ぶ男は第一騎士団団長のルートヴィヒ・ヴァン・シンドラーだった。まさか、隊長まで駆り出させるだなんて、今回の計画へのその徹底ぶりに流石のハイデスも頭が痛くなりそうだった。先程の、食えない顔をした王の顔が脳裏に浮かぶ。恐ろしい人だ。
しかし、その第一騎士団隊長という軍の象徴とも言える人物を相手に全く怯んだ様子を見せないジェイドに関心する。アイツ、最近変わったなとハイデスは思う。しかし、その要因である存在に誰よりも自分自身が大きく変わりつつあることにハイデスは気が付いているのかは分からない。
近付けば、淡々とした口調の、しかし強い意志の籠った声が聞こえてくる。
「ならば正式な文書をお見せくださいませ。こちらは貴方方が訪れる等というお話は一切窺っておりませぬ。ましてや野暮用で訪れるような装いでも人数でも御座いませぬようですし……とあれば、わたくしめはハイデス様ご不在の今、勝手に貴方方をお通しする訳にはいきません。」
「くそ!バトラー風情が誰に向かって口をきいてやがる!?穢れた黒魔術師の飼い犬が生意気だ、そこをどけ!」
ジェイドを押し退け、門の結界の解除に当たっている兵を更に端へ蹴飛ばすと自分が解除して見せると腕を捲った。
しかし、どうにもこうにもその結界はびくともしない。
それもその筈、これはルシスが掛けた結界だ。例え隊長であろうと、第一騎士団の人間に解ける筈がない。
「なんだこれは、一体どんな結界を仕掛けている?!この私が解けないだと?!」
「……何せここ最近物騒なもので、我が屋敷も警備を厳重にしているのです、ルートヴィヒ卿。皆様も、我が屋敷へようこそおいでくださいました。穢れた……何でしたかな?」
気配を消してゆっくりと近付けば驚いた髭面の男とハイデスの視線がかち合った。まさか現れると思っていなかったのだろう。明らかな動揺の色にその瞳が揺れている。