第5章 闇夜の調べ
それ以上の言葉を交わすことなくハイデスとエルメスが歩いていれば、第二騎士団がガチャガチャとその無駄に高慢ちきな鎧をかき鳴らしてやってきた。
何事だと話を聞けば暫く控えにて待機するようにとの伝令を受ける。
王への謁見の際には稀にこうした指示があるもので、今回ハイデスが急に隊長職を辞する等と言ったものだから、頭の固い上院どもがそれに対し無駄な能書きを垂らし満足するのを待てということだ。
はぁ、と予想通りの展開に用意された部屋でエルメスと二人、ドカリと座り心地だけはいいそのソファに腰を落とした。
王自ら首を縦に振ったのだ。あの老いぼれどもの意見が今回の件を覆すとも思わないが、ハイデスは何故かそれだけではない妙な胸騒ぎを感じていた。窓の外は気が付けばその激しさを増し、それが尚一層鬱積した思いを募らせる。
決め手に、先程とは別の第二騎士団が、まるでこれから戦地へと赴くのかという程の重装備を引っ提げてドアに窓にと立ち番をしているのが尚のことハイデスも、勿論エルメスも気に食わなかった。ぴりりと張り詰める彼らの気配から察して、ドアの外や隣の部屋にも同様にかなりの人数を控えさせているだろう。
全く、人を何だと思っているのだ。部屋こそ来客用に用意された一級品揃いの美しい場所だが、これでは牢獄と大差無いなと鼻を鳴らした。
その事に気が付いているであろうエルメスも、はぁと呆れたように溜め息を漏らす。
「ほら、ハイデス君さんよ。報連相をちゃぁんとしねぇからこんなことになるんだぜぇ?いくらお偉くなろうったって、組織に属する人間として、やっぱり忘れちゃならねぇことなんだ。わかったかい?」
ソファの背もたれに腕を投げ出し、天井を見上げながらエルメスがわざとらしくハイデスを煽った。悪かったと、あからさまに心の籠っていない謝罪をハイデスは返したが、特にそれ以上何も続かなかった。
カチカチと時計の秒針の音が嫌に響いて聞こえる。その時計の長い針が気が付けばぐるりと軽く一周はしたのではないかという感覚に陥る。