第5章 闇夜の調べ
ハイデスは、不安定に騒ぎ立てる胸のざわめきを圧し殺すように一礼し、足早に玉座の間を後にした。
「っ、お、おい、お前どういうことだよ!?聞いてねぇぞ、何だよ隊長降りるって!」
案の定、意味が分からないと騒ぎ立てるエルメスを横目にガツガツと薄暗くなったこの白黒の廊下を歩いていく。
「報告書には目を通しておけといつも言っていただろう。」
「いや、そういうレベルの話じゃねぇだろうがよ!!何で何も言わねぇんだ!普通報告よりも先に相談だとか何だとかってもんがあるだろうが!」
足早に歩くハイデスの後を焦ったようについていくエルメスが声を上げた。
「確かにそうだな、悪かった。お前には苦労かける。」
「っ、……や、ちょっと、待てよ、……おい、マジで言ってんのかよ!って、いや急に止まるな。」
ハイデスが振り返れば、エルメスは動揺と混乱とを隠しもしない表情でハイデスを睨んだ。
「……すまない。エルメス、アイツらを任せられるのはお前しかいない。私には守らなければならないものがある。その為に、力が必要だ。それまで、隊を頼む。」
「は?何だよ……お前それって……、」
ハイデスは何かを言いかけたエルメスに対して、この場でそれ以上言うな、といった顔をした。
その圧にグッと息を飲んだエルメスだったが、流石、誰しもが気の良く察しのいい男であると認める彼はそれ以上言葉を続けるようなことはせず、ただその柔らかそうな栗色の髪をガシガシと掻いた。
「っだぁあ~、!…ったく、!何があったかしらねぇが、しかたねぇな。任せろ!その代わり、お前絶対死ぬんじゃねぇぞ!?そしたら、あれだ、お前の仔猫ちゃんもらっちまうからな!」
「……それは死んでも死にきれないな。」
長年連れ添った、このエルメスという男のこういった荒っぽくも気前のいい人の良さが、いつしか心地よく感じていたハイデスだったが、今日という日程その有難みを強く感じることはないだろう。
感情的に、しかし確かな信頼を持って悪態を叫ぶエルメスに、ハイデスは小さくその口角を上げて笑って見せたのだった。