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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ


「ッ、…お恥ずかしい限りで御座います。」

「よくぞ、その状態で立っていられるものだのぅ。お主、どれ程自分自身に制御魔法を重ねておるのだ?酷すぎて儂には今のお主はちと見辛い。……貴殿の言葉、本心であることを願うぞ。」

「勿論で御座います、陛下。」

深々と頭を下げ、胸に手を当ててはその忠誠を誓って見せた。

「ふむ、ならば善かろう。隊長を辞する件じゃが、そうじゃのう……貴殿がどの様な策を思い描いておるのかは解らぬが、現段階ではどうにもならん事も確かじゃ。それに、止めたところで行くのであろう?長らく黒魔術師団の隊長が不在とあらば困る。よって、仮という事ならば許そう。そなたの首輪を外すのは、儂とてちと恐ろしくてのぅ……許せよ。呪いの民の件もじゃ。扱いは貴殿に任せる。それにともない、ネルガルを連れていくことを許可する。」

「ネルガル……あの、フォーゲル家ので御座いますか?」

「あぁ、今、あやつに影を遣えさせておる。上手く使え。」

何とか切り抜けられたとほっと息を吐く。このカルヴァン王国を率いる唯一の人間を欺くのはそう簡単ではないのだ。万が一にでも何かを疑われ、その琥珀色の瞳がハイデスへ疑惑の色を覗かせたならと思うと気が気ではなかった。

しかし、そう安心するのも束の間、続く言葉にまたどっと冷や汗をかいた。 

「それと、クロヴィス卿。最近、養子を迎えたそうじゃな。皆が、それは大層素晴らしい娘だったと噂しておる。是非とも、近いうちに儂も相見えたいものだのぅ。」

「勿体無き御言葉。是非、その様な機会に恵まれる事を切に願います。」

ドクン、ドクンと心音が静かに響いた。
まさかな、と王のその言葉に社交辞令にしては妙にはっきりとした声色に不穏な胸騒ぎを感じる。その感情を悟られぬよう床を見たが、同時にハイデスもその時の王の表情を見ることは叶わなかった。
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