第5章 闇夜の調べ
「今、天使が随分と我が国でざわついていおる。貴殿の領土へも天使の被害があったことも儂の耳に入った。故に貴殿の気が急っておるのは良く解る。じゃが、被害が出ているにしては、ちとやり過ぎではないのかえ?先日、貴殿の邸に強力な結界陣が施されたという話を小耳に挟んでのぅ……何があった。」
王の言葉にハイデスはぐっと息を飲んだ。
恐らく、あの時、セラフィムから逃れる為に邸へ張った結界は簡単に隠せるようなものではなく、バレているであろうという事は分かってはいた。しかし、既に王の耳へも入り、そしてまさか直接問い質されるとは。
「、……天使の、襲撃に合いました。上位種です。急を要しておりましたので、御報告がこの場になりましたこと、お許しください。」
「なんと、良く無事であったな。先日の街に降りてきたのとは別の個体か。」
「はい。」
「成る程のう……貴殿の魔力が酷く乱れておるようじゃが、その為か?」
ギラリと光る琥珀色の瞳が、真っ直ぐにハイデスを見据える。先程とは比でない圧力がその身に重くのし掛かる。
ハイデスは、つう、と首筋に嫌な汗が垂れるのを感じた。
まさか、天女の魔力を食らい、その力に酔わされているだなどと口が裂けても絶対に言える筈がないのだ。だが、ここ王都ロルベーア城ではその類いに精通している人間が数多く存在する。目を見ただけでその感じ取る魔力の状態から喰らった者かそうでないか分かるという。
だからハイデスは、それすらも分からぬ程、鎮静魔法に制御魔法、魔力制御等、ありとあらゆる魔法を己に掛け今ここにいた。
どんなに優れた魔法使いであろうと、幾重にも掛けられた魔法の奥に潜むその訳を見抜く人間はそう居ない。ましてや、ハイデスの魔力を正確に見ることが出来る程に魔力値が高い人間等、数えられる程度のものだった。
故に、この場で、この国王フーゼンの目さえ出し抜く事が出来たならばハイデスは今回の計画は上手く行くと確信していたのだ。