第5章 闇夜の調べ
ハイデスはそこまで言うと、僅かに一呼吸起き、そして強い意思を持って王を見据えた。
「また、以上に伴い今後私自身の活動領域の開拓が不可欠と判断致し隊長職を退くこととなります旨を合わせ、ご容赦頂けますよう、伏してお願い申し上げます。今後の隊長職の席につきましては、現在副隊長を勤めております、このエルメスを私からは推させて戴きます。」
何時ものように、淡々と声色変わらず王への報告を行うハイデスであったが、しかし、その隣に控えるエルメスの表情がほんの僅かにだが、段々と強張っていくのが分かる。だが、この空間でそれを感じているのはハイデスくらいだろう。
国王は、二人を真っすぐに見据えているが、その表情からは一体何を考えているのかは誰も分からない。
今しがた聞いた報告内容に、少しだけ考える素振りを見せ、そして王はまじまじとその琥珀色の瞳をハイデスへと向けた。
「調査結果が思わしくない事については今更追及せんが……なるほどの。貴殿一人で奴ら呪いの民をまとめ上げると申すか。確かに、その件もどうにかせねばならぬとは思っておった。いい機会だと言えばそうじゃがな。じゃが、長を辞するとは何事か?」
今回の報告で、エルメスをわざわざ呼びつけた理由であり、誰しもが聞いて何故だと問いただすであろうその判断に、王も同様に首をかしげた。
呪いの地域への捜索は英断とも取れようが、故に隊長職を辞めるというハイデスの言葉に、相分かったとどうして頷けようか。
何もそこまでしなくとも良いだろうと言う王に、全力で首を縦に振りたくなるエルメスも思いは同じであった。この世界、ヴェルツゥヌ全土で唯一黒魔術師を隊として率いるカルヴァンで、そのトップを務める男が辞すると言うのだ。考え直せと言うのも至極尤もな話である。