第2章 1 箱庭
「フフ、アンリは面白いことを言うね……宝石だよ。ここ全部ね。」
「え、本当に……?」
「あぁ、全部希少性が高い上に、殆どが市場に出回らない。何種類かあるけど、今は全部ここでしか採れないんだ。ちょっと特殊な訳があってね……少し奥へ行こうか。」
そう言うと彼は歩ける道を探して奥へと進む。
そんなに凄いものが、こんなにあるなんて信じられない……
辺りからは淡いグリーンから清んだ青、紫系統のもや寒色系の宝石が入り組んで突き出ている。
こんなに足場が悪いのに彼は私を抱えたまま何でもないように進んでいく。
目の前の穴から入り込む風の音が洞窟の中に響いた。
「こんなに沢山の宝石、初めて見た……。」
「フフ、君にこれを見せたくてね……そうだ、何か適当に持って帰る?」
「え!?いいよ、そんな私が持ってたら勿体無い……」
本当に、こんなにも綺麗なものを奪ってしまうのはバチが当たってしまいそう。
この空間にいるだけで十分だった。
「ねぇ、建物の下を降りてきたのに、どうして目の前に空があるの?」
「んー、ここが空だから、かな。」
そう言って笑う彼に、真剣に聞いたんだからふざけないでよ、と言ってもやっぱり笑って返されるだけだった。
そのまま少し進むと、少し開けた空間に出た。
歩いてみる?と聞かれたので自分の脚で歩いてみることにする。
セラフィムに手を引かれながら少し足場の悪いところを歩いていく。
ああ、私今宝石踏んで歩いてる。
部屋で靴を履かせてくれたのはこの為か、なんて思いながら彼の然り気無い計画性に感心する。
私の手を引く彼の向こう側には真っ青な空があって、そのサラサラとした彼の金髪が空の光と、周りの宝石の輝きを写していて、こんな場所でも彼のその輝きは全くと言って良いほど霞まなかった。
本当に綺麗な人、まるで……
そう思った時に、ハッとする。
そうだ、セラフィムって、天使の名前だ……
整った顔と優しい甘い表情に、輝くオーラ。
例え今彼に羽が生えていたとしても可笑しくない。
「……本当に、天使様みたい……」
思わずぽつりと出てしまった私の独り言に、少し驚いた表情をした彼が私を見て、そして笑った。
「天使、ね……フフ、強いていうなら、カミサマかな。」
「え、カミサマ……?」
「そうだよ……カミサマ。アンリ、君だけの、ね。」