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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ


真っ白な壁や床は光を受けるとキラリと時折反射して、まるで今や御伽の国の話で聞いた、全てが宝石で出来たというドラークの巣穴のようである。見事だと、訪れた誰もが口にするであろうそれらを無造作に踏みつけながら二人は奥へと進む。
ハイデスは、ここまで広く複雑な装飾を用いたこの部屋を、更に眩しい程に白く保つ為に、一体どれだけの魔力が使われているのだろうかと呆れる。だが、それもこの国を守るひとつの要素となり得るのであれば、案外安いものなのかもしれないと最近になって漸く思えるようになってきたのだった。

中央正面に現れた、これまた一際艶やかで美しく、高く延びる背凭れには細やかな彫刻とそこに埋め込まれた魔石がきらりきらりと光を放つ。
がらんと広いその場所で男二人は膝を折ると、静かにその無人の玉座を見詰めていた。

ザァ、と遠くで強い風が吹く音がする。
今夜は荒れそうだなと、どこか他人事のように思っていれば部屋の奥から人影が現れ、二人はすぐに床を見た。
カツンカツンと、これはまた嫌に威圧感のある足音を響かせながらドカリとその玉座へ、さも退屈そうに腰を下ろしたのはこのカルヴァン王国、国王のフーゼン・フュルスト・フォン・カルヴァンである。肩程まで伸ばされた髪は鮮やかな金髪に濃いめのグレーを混ぜたようなものであった。琥珀色の瞳は細められた目蓋の奥にあり、眉間に皺を寄せている様子からは、どこか気難しげな空気が感じられる。
しかし王はその表情とは裏腹に、比較的穏やかに二人を迎えるとすぐに顔を上げさせ、同時に発言を許した。

「拝謁賜りまして、御報告申し上げます。」

ハイデスは、床に膝を付いたそのままの姿勢で王を見れば、真っ直ぐにその漆黒を向ける。その瞳には一切の曇りすら無いように見えた。

「私共、黒魔術師団による天女、及びその情報の探索結果につきまして、未だ目的の行方を突き止めることが出来ず、尚も捜索を継続中であります。現在、転移魔方陣を用い国外へと捜索範囲を広げ実施中。今後の捜索方針と致しまして、引き続き国内外の捜索と、更に呪いの地への範囲拡大を検討中であります。故に、呪いの地での捜索を案じ、適切な行動方針を模索した結果、呪いの地の奥地へは隊を率いず私自らが現地へ赴くことを御承知戴きたく、従って、呪いの民の収集と利用許可の届け出を行う方針で御座います。」
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