第5章 闇夜の調べ
カツンカツンと長い廊下に足音を響かせては、この白と黒とで統一された嫌味な程に絢爛豪華で無駄に長い廊下を、それこそあつらえた様に真っ黒なマントを靡かせ二人の男が歩いていく。
夕日が横から刺すように照らし、今日という日の終わりを告げようとしていた。光と影のコントラストに鮮やかな茜色が混じるので、この時間だけは唯一このモノクロの世界が色付くのである。
いつも目がチカチカして堪らないんだと、男の一人が嘆くのを一体何度聞いただろうか。何も白と黒とをこんなにも扱う必要があるのかとその色を纏う人間は皆げんなりと項垂れる光景なのだが、玉座の間へと続くこの廊下だけは何があろうとその色を維持させろとのお達しだ。だがそれも定期的に魔力の維持に駆り出される黒を纏う男たちにとっては本当に迷惑な話であった。
相も変わらず、怯える様にこの二人と擦れ違う人間達は道を開け、剣を腰に刺さない者達は皆頭を垂れる。
何時ものことだと気にも留めない様子で歩くが、その男の目には妙な緊張感があるように見えた。
「そういえばエルメス、陛下への報告書は目を通したか?」
「あ?見てねぇよ、んなもん。いつもとかわんねぇだろ?」
「……全く、お前は。」
呆れたように隣の男…エルメスを見たハイデスは、何とも気の抜けた返事を返す相手に、呆れたようなため息を落とすもそれ以上追求はしない。変わりに目の前に現れる、嫌でも訪れた者の視線を奪う程にこれまた装飾華美な大きな扉へと視線を移す。
側に立つドアマンを一瞥し小さく頷けば、その見上げる程に高く重々しい扉が音を立てて開かれた。
その空間は先程歩いた空間が、それこそ単なる廊下であって通路でしかないのだと感じさせられる程に広かった。両側には何本ものクリスタルだろうか?いや、恐らくは全て魔法石で形成されたであろう透き通る大きな柱が、首が痛くなる程高い天井まで伸びている。更にその柱の先には大きな窓が壁沿いにずらりと並び、天井近くには絵画のようなステンドグラスが幾つも埋め込まれている。それらは描かれた物語を、これまたどこまでも白い大理石のような床へとその色を写すのだ。
今もまたこうして色鮮やかに描かれたステンドグラスが光に照らされ、その輝かしいカルヴァンの栄光を描く光がこの空間を彩った。