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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ


「……貴女の頼みとあれば、仕方ありませんね。」

ふぅ、と息を吐くルシスさんは、どこか笑っているかのようにも見えた。
そうしてルシスさんが周囲を見渡すと、その視線に合わせてシュバルツ達が敬礼こそしないものの、ビシッと音を立てるくらいに直立不動の姿勢を取った。

「全く、可愛らしいだけと思っていたのを、少し見直さなくてはなりませんかね……。」

今度こそ、喉を鳴らして笑って見せるルシスさんに、何のことかと思っていれば、もう構わないだろうと思ったのかその変身を一気に解いていた。

ゴクリと、息を飲む音が幾つも聞こえてきた気がした。

丁度その時、何事だと駆けてきたカールさんが到着し、急に現れたルシスさんを前に顔を真っ青にして急停止した。

「カール、ジェーンと共にうちのバトラーが来るまでアンリ嬢と共に。絶対に城の他の者に彼女の存在を知られないようにしなさい。バトラーが到着次第三人で私の城へ無事に送り届けること。いいですね?」

ルシスさんの急な指示に、カールさんは分かっているのか分かっていないのか、その首を玩具の人形のようにカクカクとさせた。

「アリアス、お前はハイデスとエルメスが謁見から戻り次第このことを伝えられるように今すぐに控えの間に向かいなさい。拒まれるようであれば私の名を出しなさい。」

ビシッとそれこそ本当に音がするくらいの素早い敬礼をするアリアスさんと、口を魚みたいにハクハクさせた後、一歩遅れて同じ様にビシリと敬礼をするカールさん。

「では、私は今からクロヴィス邸へ向かいます。いい子で待っていてくださいね、お嬢様。」

ルシスさんは執事さん達が行う、お腹に手を当てた礼をあまりにも上品に私に向けながら悪戯っぽく笑って見せた。
そうしてヒラリとローブの裾を翻し行ってしまったルシスさん。ポツンと置いていかれた私は、放心状態のカールさんと、逆に興奮状態のジェーンさんとを横目に、唯一素早く次の行動に移るアリアスさんの背中を見えなくなるまで眺めていたのだった。
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