第5章 闇夜の調べ
その間ルシスさんはというと、何食わぬ顔であくまで御付きの執事ですといった様子だ。そのことにここにいる誰一人疑いを持っている者はいないだろう。
かく言う私自身も今この場所にあのルシスさんがいるということを意識するのを忘れてしまいそうな程である。
それくらいに、カールさんやジェーンさんの案内が楽しくて、この時間を満喫しているという事でもあるのだが。
剣の鍛錬や個人魔法の練習を行っている様子を見ながら、普段屋敷にいるだけでは感じることの出来ない空気が、私にとってかなりいい刺激であった。
「あ、そういえば、隊長とは家でどんな感じなんすか?」
「え?ハイデスさんと、ですか…?、ふ、普通だと、思います……?」
「えー、普通って言っても、何かあるでしょう?」
突然の問いかけに思わずどもってしまう。
この場合の何か、とは一体何のことを指しているのだろうか。
正直思い当たる節がありすぎてかなり動揺してしまった。
確かに、私はハイデスさんと直接の血の繋がりはない、遠い親戚でハイデスさんの領地に住んでいたということになっているので、何かあると思うのは至極当然のことであろう。
「こら、カール、アンリ様を困らせるんじゃありません。」
「いや、そんなこと言ってもジェーンも色々気になるだろ?ほら、お師匠様ともエスコート受けるような間柄なんだから。」
「、そ、れは…!!私が聞けずにいたことを、カール!!」
ジェーンさんのありがたい助け舟にほっとしたのも束の間、今度はルシスさんとの事を突っ込まれてしまい現状先程よりも危ない状況になってしまった。
だって、ルシスさんの名前が出た時の、ジェーンさんの食い付きが凄まじい。ルシスさんのことを崇拝しているだとか、ちょっと変わった人みたいに言われていたが、実際に話してみるとそんなことないじゃないかと安心してしまっているところだった。
先程まで礼儀正しく、誠実な騎士様感満載であったジェーンさんは今明らかに動揺しソワソワと落ち着きがない。
「ほら、ジェーンも気になってるんじゃないっすか。こんな機会はないんだから、聞いちゃいましょうよ。ね、アンリちゃん?お師匠様とはどんな感じなんすか?」