第5章 闇夜の調べ
しかしそのまま揉める二人であったが、ジェーンさんが割って入ると大人しくなるカールさん。少し不服そうに腕を組む姿が何だか微笑ましい。その横でジェーンさんが本来伝えたかったであろう事を聞いたエルメスさんが少し呆気に取られていた。それは、今回の王様への報告に副長であるエルメスさんも参加するようにとの伝達だった。
「は?オレも、?なんだハイデスのやつ、一人じゃ不安だってのか?しかたねぇなぁ……悪い、アンリちゃん、残念だが、そのショボいエスコート受けてやってくれ!おいカール、この場で消し屑にされたくなきゃ、妙な事すんじゃねぇぞ!」
「まじっすか!有難うございます!いやぁ、流石のハイデス隊長の目もここまでは届かないでしょう。ね?アンリ嬢、いや、アンリちゃん、行こうか。」
「えっと、…じゃあ、折角なのでお願いします。」
不貞腐れた様子から、一気に表情を明るくさせたカールさんが、満面の笑みを浮かべて真っすぐに私を見ると、その剣ダコのついた少しゴツゴツとした手を差し出してくる。あまりにも真っすぐでキラキラした瞳に断るなんて出来なくて、私はその手を取ろうとした。しかし、すぐにジェーンさんが止めに入る。
「私も同行致しますので、ご安心ください。それとカール、さすがに手を取るのはいただけません。」
「ジェーン、厳しすぎるだろ……。」
がっかりした様子のカールさんだったが、それ以上特に気にした様子もなくすぐに持ち直した。
「うわ、でも、すっげー嬉しい……隣、歩いても?」
「カール、隣を歩かずしてどうやってエスコートするつもりだったんですか?手を取ろうとした人の言う事ではありませんよ。」
「いや、そ、そうなんですけど……ハハ、カッコつけた手前、普通の女の子に怖がられないなんて、何十年ぶりか……正直、エスコートの仕方も覚えてるかどうか。」
そういって悪戯っぽくも人がよさそうに笑って見せるカールさんは、そのまま腕を組ませることも手を取ることもしなかった。
やっぱり隊長許可がないと手は握れないかと残念がり、何度も悔しがってはいたがその度にジェーンさんの静止が入るのが何だか面白かった。