第5章 闇夜の調べ
「ハイデス隊長は今は国王陛下への報告前で此方にはいらっしゃれないのです。夕刻ごろには戻られると思うのですが、それも確かではなく……」
申し訳なさそうに言うジェーンさんに慌ててそういう意味じゃないのだと伝える。確かに、少しでも顔が見れたならばといった期待が全くなかったのかと言われてしまえばそれは嘘になるが、だからと言って不満があるだとかそういう事は一切無い。
「いえ、ハイデスさんは、忙しいのだろうなという事は分かっているので、大丈夫です。ちょっと雰囲気を感じられるだけでもと思っていたくらいなので。お邪魔になってしまうだろうと思っていたのが、こんなに歓迎して頂いて、寧ろ申し訳ないくらいです。」
本当に、お城の雰囲気を見て、ここにハイデスさんが居るんだなぁと思うだけで最初は良かったのだ。
それが、こんな、ハイデスさんの隊の人たちに会って話が出来るなんて思ってもみなかったし、こんなに歓迎されるだなんてことも思ってはいなかった。
「うわぁ~、本当に絵に描いたかのようないい子ですね。エルメス副長、隊長が戻られるまで、俺が彼女のエスコート、じゃない……案内しますよ!いや、させてください!!」
感心したような声を上げたかと思えば、元気よく我こそはと鍛錬内のエスコート役に買って出ようとするカールさんは素直な人なのだろう。
「は?お前よくこの場でそんなことが……あ、そうか、知らねぇのか。」
何のことだと首をかしげるカールさんに対し、ちらとルシスさんの方を見たエルメスさんが慎重そうに言う。
「いや、えーっと……お連れ様に了承を得てからの方が良いんじゃねぇのかと。」
「え?、お連れ様って……バトラーじゃないっすか。」
私の後ろに立つ執事姿の人の正体がルシスさんだと知らず、砕けた口調でそう言ってキョトンとするカールさんに、いやいやと若干青ざめた表情でルシスさんの様子を伺うエルメスさん。もしかしたら、この人達にとってのルシスさんって本当に怖い人なのかもしれない。
「……私は、お嬢様の意に従いますので、ご心配には及びません。お気遣い感謝致します。」
カールさんの軽口も、エルメスさんの心配もさらりとかわすルシスさんは実に涼し気な表情を浮かべていた。