第5章 闇夜の調べ
「エルメス副長、警備兵の巡回ご苦労様で御座いました。それと……申し訳ございません、先程の会話が聞こえてしまいまして。わたくし、ハイデス隊長の秘書兼、文書の管理を務めさせて頂いております、ジェーン・シュトラウスと申します。」
「あ、アンリ・ファン・クロヴィスです。ハイデスさんの秘書さん、ですか?」
甲冑こそ着けてはいないが、騎士の服を着ていたこともあり近くで見るまで女性だとは全く気が付けなかった。しかも、私よりずっと背も高ければ体格もいい。綺麗な長い髪をポニーテールにして靡かせているのが印象的だ。
そして、彼女こそ先程エルメスさんが言っていたルシスさんを酷く崇拝しているその人であると名前を聞いて気が付いた。まさか、ハイデスさんの秘書さんだったとは。
「はい、恐れ多くも。お嬢様のお話は隊長からよく耳にしておりましたので、わたくしも一度お目見え願えないものかと思っておりました。こうしてお会い出来て光栄にございます。」
ジェーンさんはカールさんと違って凄く丁寧な、いや、堅苦しいという言葉の方がしっくりくるのではというほどに、綺麗な礼をされて私もあわてて腰を折った。
「いえ、そんな……私の方こそ、ハイデスさんが普段どんなところでお仕事してるのかなって思って、無理言って今日急に来てしまったんです。」
「そういうことでしたら心配は御無用です。心行くまま、見ていって下さいませ。皆、アンリ様だと知れば歓迎するでしょう。こんな男臭い場所です。既に、こんな可愛らしい方が御見えになられたので、気になって仕方が無いようです。」
そう言うジェーンさんが、訓練中の師団の方達の方を見ると、動きを止め此方を見ていた人達が一斉に訓練に戻ったのを見て、ほら、とでも言いたげに私の方を向き直りにこりと微笑んだ。
何だか気恥ずかしくなった私はここまで一切の存在感を消したままでいるルシスさんの方を思わず見てしまった。
その視線に気が付いてか、いつもと全く違う容姿だがその変わらぬ笑顔を向けてくれるルシスさんにちょっと安心して思わず名前を呼びそうになるが、ダメなんだと思い直して焦って前を向き直る。
ルシスさんの表情を隣で見ていたエルメスさんが、何とも言えない驚いた表情をした気がしたが、気にしない。