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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ



「え、えっと……アンリ・ファン・クロヴィスです…。突然お邪魔してしまってすみません。」

「あ、ああ!本当に?!すごい、本物だ!自分はカール・ファン・ローテンブルク。騎馬兵長を任されてます。実は俺、あのデビュタントに行ってたんだ。いや、もう本当に綺麗で、俺も挨拶したかったのに隊長ってば絶対に会わせようともしてくれなくてさ、酷くないですか?!自分の部隊の部下ですよ?全く怪しくないのに、そんな俺ですら君に手が届かなかったんだから!」

すごいすごいと捲し立てるかの様子で興奮気味に話すカールと言った彼は、艶やかな黒髪を耳にかかる程度に揃えた明るく爽やかな青年だ。話しぶりも雰囲気も随分と若い感じがした。

「当たり前だろ?もう既に挨拶も済ませて同じお茶の席に着いてた俺ですらあの日のアンリちゃんにはお目見えを許されなかったんだぞ?お前なんて会えるわけがないだろ。」

「え!?エルメス副長、ずるくないですか?何でそのお茶会に俺を呼んでくれない?!」

フフン、と相変わらず得意げな様子のエルメスさんは、カールさんを窘めるように言うと少し悪戯っぽい笑みを私に向けてくれた。

「ばーか、んな事許されるかよ。全く、悪いな、アンリちゃん。こんなやつばっかりだが、良かったら雰囲気でも楽しんでってくれ。」

急な勢いにまだついていけない私は、それでもどこか暖かいものを感じて頷くと何だか笑ってしまった。
あまりにもカールさんの声が大きいものだったから、気が付けば少し視線を集めてしまっている。まぁ、確かにそうだろう。ここには騎士団の服を着た黒一色。その中に突然ドレス姿で女が執事姿の人を連れて来たなら皆なんだと思うだろう。
注目の的になる事に慣れていない私は気まずさを覚えたが、そこで、視線が交わってしまった人がいた。
少し遠慮がちに様子を窺うような人がほとんどの中、真っすぐに此方を見るその人を思わず私もしっかり見てしまった。すると、そのことに気が付いたのかこちらに素早く駆けてきた。
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