第5章 闇夜の調べ
先程の衛兵の人が警備していた道の先に通してもらうと、庭園よりシンプルで無駄のない作りの道を進む。
大きなガゼボのある場所に来るとエルメスさんが警備中の衛兵に一声掛け、その中へ。
床にはいくつもの転移用の魔法陣が描かれており、その中の一つに入るとキラキラとした光に包まれ、気が付けば違った景色が目の前に広がっている。
屋敷にも小さなものはあり、初めて使った時も感動したが、やはり使うたびにその不思議な感覚に少しだけドキドキするのだ。
先程の庭園の優雅で穏やかな雰囲気とは空気が変わって、威勢のいい声や、剣の交わる激しい音が聞こえてきた。
今まで屋敷でも比較的静かな時間ばかりを過ごしていたせいか、熱気のある空気に少し押されてしまう。
「……ちょっと、緊張しますね。」
「何、怖がることは何もねぇよ。皆ハイデスの部下で、気のいい奴らだよ。あ、だが……間違っても、アイツらの前でモルゲン導師の名前を呼ばねぇでやってくれ。特にジェーンって女の前ではな。」
「はい、気を付けます。バレちゃまずいんでしたよね。」
「ああ、まぁ、他の連中はまだモルゲン導師に対しての恐怖感が抜け切れてねぇってのが一番だが、ジェーンに関しては逆だ。アイツはモルゲン導師を崇拝しすぎてて目の前にしたらうるせぇ何てもんじゃねぇ。なんつうか……とにかくだめだ。」
「ええ?ルシスさんの事を尊敬するがあまり……ってことですか?」
予想とは違ったエルメスさんの言葉に、思わず聞き返してしまうと同時に、ルシスさんの方を見てしまう。
確かに、ルシスさんは本当にすごい人らしいし、かっこいいし尊敬する気持ちもわかるが、それにしては少し表現が怪しい。
ジェーンという女性は少し変わった人なのだろうか。
「まぁ、そうなんでしょうね。決して悪いことではないのですが、少々扱いに困っておりまして。どこでああなってしまったのか、私も分からないんですよ。」
うーん、一体どういう感じなのか見当もつかないが、ルシスさんまでもが扱いに困るというのだから相当なものなのだろう。