第5章 闇夜の調べ
昼過ぎにお城へ行くという事だったが、ルシスさんが少し用が出来てしまったと言い、お城へ向かったのは少し日が傾き始めた頃だった。
しかし、今朝の事もあって少し時間を空けた方が有難かった私は少しほっとして、ゆっくりと支度をすることが出来た。
支度と言っても、ルシスさんのお宅のメイドさんに手伝ってもらって、だが。何せ、二人ともこのままの容姿で行くと面倒なことになりかねないので、私は軽く髪色を、ルシスさんは髪と顔を魔法で変えて行くことになった。ぱっと見知らない人なのに、話してみるとルシスさんなのだから、何だか不思議な感じだ。
魔法を掛ける様子も見せてもらったが、長かった髪がみるみる短くなり肩に付く程度、色も漆黒から鮮やかな紅色に染まっていく様子は面白くて目を輝かせて見てしまった。
そんな私にルシスさんは少し可笑しそうに笑っては、そのいつもと違う姿で、当然のように私の手を引いては馬車へと乗り込んだ。
王都は本当に賑やかで、それでいて華やかだった。
以前、デビュタントの時に来たのは王都の東側で、そこは所謂古い雰囲気のクラシックな建物が多くて、赤いレンガ造りの街だった。
そして今日向かっているお城は、そのもっと奥の西側に位置する。ルシスさんのお屋敷は王都の北西側にあり、王都の中心部から然程遠くもない距離なのだが、あの日とは景色が全くと言っていい程に違っていた。
前見た街並みは、どちらかというと趣がある様な雰囲気だったが、ここは神秘的、という言葉の方があっているだろう。
探す必要もない程高く聳え立った城はどこが入り口なのか分からない程に大きく、そしてどこから見ても美しかった。
白く大理石の様な素材で出来たそれは青空の下、眩しいくらいに輝いていた。
前に、服や建物と言ったものも魔力の影響を受けて色が変わるのだという事を聞いたことを思い出したが、あれがまさにその影響を受けてのものらしい。
長い年月をかけてあの場所は、王族や貴族の国のトップクラスの人間達による魔力というものの力の影響を受けてきたのだ。白く、青く輝く建造物はあまりにも美しく壮観だ。
私はその馬車から見える景色に思わず、わぁ、と食い入るように眺めてしまっていた。