第5章 闇夜の調べ
「え、えっと、つまりどういう……?」
「おや、もっと具体的にお伝えしなければ分かりませんか?」
まさかな、と思いつつ聞き返してしまった己を恨むが正直そんな余裕もある筈も無く、気が付けば身動きの取れぬ身体とそんな私を捉える漆黒の瞳がそこにあった。
「まぁ、そもそも二度目までと待って差し上げる必要もないのですがね。」
「え?それって…」
思わずルシスさんを見たが、その視線が再び交わることはなかった。
代わりに、後ろ首を押さえる手と、唇に触れる、薄く柔らかな感触にそれ以上の言葉を言う事は叶わなかった。
深くなる口付け、ぬるりと私の中に滑り込む熱い舌に半ばパニックになりながらも、抵抗も出来ず私はルシスさんの腕の中で必死に息を繋ぐことしか出来ない。擦れる舌の感触にゾクリとする。こんな事、ルシスさんとしていい筈が無いと思いながらも、じわりじわりと体を襲う感覚に眩暈さえする。
「、ん…ふ、ぁ…」
体が熱を持ちそうな程に深い口付けを受け、このまま溶かされてしまうのではないかという感覚すら覚えてきた頃ゆっくりとその身が離された。
「察しが悪いのも貴女の可愛らしいところですが、私はいつまでも冗談で終わらせて差し上げる気は御座いませんよ?覚悟なさい。」
ルシスさんはそう言うと相変わらずの悪戯っぽい笑みを浮かべながら、今の口付けなどその悪戯の範疇だとでも言いたげな様子で笑いながらするりとベッドから出て行ってしまった。しかし私へと向けられたその言葉に、次は本当に冗談では済まされないであろう事を感じさせられるものがあった。
私は、息を整えながらも思わず火照った体を隠す様にベッドへともぐりこんだ。
「フフ、まだ朝早い。ゆっくり休みなさい。」
布団越しにぽんぽんと優しく叩かれる感覚をうけつつ、そのまま静かに扉が閉まる音を聞いたのだった。