第5章 闇夜の調べ
上品なレースのカーテンから差し込む、柔らかな光に包まれて自然と目が覚めた。薄く開いた瞼の先にいつもと違う部屋の空気を感じて、寝ぼけた頭で確認したその視界に、私はまだ夢の中であったのかという錯覚を起こした。
だって、まさか自分があのルシスさんの腕の中で一夜を過ごしてしまっただなんて、どう考えても夢であって欲しいと思わずにはいられない。
目の前には、あまりにも整った顔立ちに長く伏せられた睫と、さらりと落ちた前髪がその目元を少しだけ隠している。
それは少しだけ視線を上げた先であって真正面でないことがせめてもの救いか。
いや、だとしても状況は何一つ変わることないし、どうすればいいか分からなくて次第に眠気が冴えてきた頭は冷静に考えるというよりもただ混乱するばかりで。そもそも私はなんでルシスさんと同じベッドで寝てるんだとかそんなことを頭の中でぐるぐると考えていては、不意に、頭上から小さな笑い声か聞こえてきた。
「え、あ、お、起きてるんですか?」
「ええ、随分前にね。おはようございます。よく眠れたようで安心いたしました。」
まさかと言うか、やはりと言うべきか、狸寝入りをきめられた私は、先程まであわあわしていたのも全てバレていたのだという事に気が付いて恥ずかしさやら何やらで、どっと汗が噴き出したような気がした。
「や、え……な、なんでわたし、ルシスさんと一緒のベッドで眠っているんでしょうか……?」
「おや、覚えていないのですか?昨夜、アンリ、貴方があの処置の後眠ってしまい、私を離してくださらなかったからですよ?」
嘘、そんなことしちゃったのか……ともはや放心状態の私は、にこりと柔らかな笑顔を向けるルシスさんの顔も見ることが出来ずにただ俯いた。
「あまりに可愛らしくて、起こすのも酷でしたし……それに、夢の件もありますから、丁度良かったです。素敵な夜を、ありがとうございました。」
耳元で囁かれる言葉に、怒っては無いのだろうと信じつつも、思えば絶対に逃げられないこの状況に焦るしかない。