第5章 闇夜の調べ
抱きしめられて、私の体をまさぐるその手が、どこをどうしてるかだなんて分からないまま、私はこの感覚が怖くて必死にルシスさんにしがみついた。
「もう少しだけ、我慢して下さいね。」
ルシスさんの優しい声が耳元でする。安心させるようなその声色に、ふっと息を吐くと少しだけこの何とも言えない苦しさが紛らわされるような気がした。
私を支えるように回された腕がしっかりと私を抱きしめる。私はその感覚に集中して、この時を何とかやり過ごした。
そうしてやっとのことで手が離れると、私は息が上がっていて、まだぞわぞわとした感覚が残る体にどうすればいいか分からなくなる。
「よく頑張りましたね。無事に終わりました。落ち着くまでこうしていて差し上げますから、ゆっくり息を整えてください。」
ルシスさんに抱きついたまま、私は優しく頭を撫でられながら、言われるがままにゆっくりと上がっている息を整える。段々と落ち着きを取り戻した後も暫くそうしていた。
ふと合わさった視線に、何だか自分がその漆黒に捉えられているのではという錯覚に陥りそうになる。意識が次第にぼんやりとしてきて、急激な眠気に襲われているのだと気が付いた時には、ちゃんとしてから眠らなきゃだとかそんなことは何一つ私の思考には浮かんでこなかった。
それは不意に私を見つめるその黒い瞳に吸い込まれそうになったからで、その瞳が赤く光ったような、そんな錯覚と共に、ルシスさんがふと笑ったように見えて、そこで私の意識は途絶えた。
落ちるように睡魔の中へと身を委ねてしまった私だが、それはとても心地の良いもので、不思議と夢を見るようなことも無く、ただただ、久しぶりの深い眠りに落ちていくだけであった。