第5章 闇夜の調べ
「そうおびえなくとも大丈夫ですよ。多少用途は違いますが、同様の処置をハイデスにも行っております。その後の経過としては問題ありませんでしたから。」
「え?ハイデスさんにも?」
ですから安心してくださいと、そう言うルシスさんに私は目をパチクリさせる。まさかハイデスさんもそんなことをしていただなんて知らなかった。
じゃあ大丈夫かな、と何となくの安心感を覚えた私は改まってルシスさんに向き直った。
「えっと、どうしたらいいですか?」
「そうですね、少し横になれた方がいいでしょうから、一度ベッドに移動出来ますか?」
誘われるままにベッドへ座って、そのまま仰向けになった状態で、何やら準備をしている様子のルシスさんをちらと見た。すぐに私の方に来たルシスさんが、ベッドに手を付いた重みでギシリとスプリングが鳴った。
待って、これ、すごい緊張するんですけれども。
私は軽く見下ろされるような体勢で、そのさらさらの長い黒髪がゆっくりと下に落ちるのを見た。
「……失礼致します。」
首元と胸元を、長く整った指先がなぞる。
何だかぞくっとして、思わず変な声が出そうになるのを必死に耐える。
「ここ、ですね。」
そこは、丁度胸元の所謂谷間の始まりの付近。心臓に一番近いとされる部分。
「少し、苦しいかもしれませんが、我慢してくださいね。」
すると触れていた、ルシスさんの手が何の抵抗もなく私の中へ入っていった。その、分かっていても怖さがあるその不思議な光景に思わず息を飲んだが、痛みはない。
これは、セラフィムにされたものと同じ……?
なんだか、痛みとも言えない変な感覚がして、怖くなって思わずルシスさんを見た。すると、その黒い瞳がまっすぐに私を見ていた。なんだか、ぎゅっと心臓を掴まれたかのような感覚。同時に、少しザワザワとした感覚に襲われる。それが波のように私の中に広がっていく。
「っ、あ、っや、ぁ……まって、なん、か…」
「……大丈夫、怖かったら私に抱きついてください。」
初めての感覚に混乱して、手足の感覚が次第に無くなっていくような、でも胸の中は酷い圧迫感のような、重たい不快感に襲われる。
私は怖くなって言われるがまま、目の前のルシスさんに腕を伸ばしていた。
「ひ、っつう、……」