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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ




小さく手招きされ、広めのソファに座るように促されればそのふかふかの座り心地に忘れた筈の睡魔がまた顔を出しそうな程だ。
ルシスさんは机の上に何やら掌サイズの水晶?のようなモノや羊皮紙等を出した。何もない空間に突然現れたそれに、目をぱちぱちしていたが、それを出した本人は特に気にした様子もなく私の隣に腰を下ろすとゆっくりと向き直った。

「先ずは今の魔力の状態を見させてください。大丈夫、すぐに終わりますので。」

そうして、ルシスさんの掌が私の額に触れた。これはいつもの魔力の状態を見る時にも行うやつだ。ハイデスさんもジェイドさんもこうしてたまに私の様子を確認してくれる。

真剣な表情のルシスさんが目の前にいて、あまりにもじっと見詰められるものだから、恥ずかしい気持ちを誤魔化すように視線を反らす。だが、それでもどうしても緊張してしまう。私はそのまま目を閉じてこの時が過ぎるのを待つ事にした。
少しして、手が離れたかと思うと、失礼します、と言うルシスさんの言葉と共に今度はデコルテにその手が触れた。
思わずビックリして、少しだけビクッとしてしまったが、ルシスさんを見ると申し訳なさそうに、少しだけ我慢して下さいと言って眉を落としていた。
喉がゴクリと鳴る。こんなにも緊張するとは思っていなかった。

いや、別段何をされているわけでもない。
しかし、これも私の魔力の状態やら体調やらを確認する作業でしかないのだから、と自分に言い聞かせても一秒一秒、ドキドキと音を立て始める心臓を落ち着かせる術を私は知らない。
でもこれはさすがに、距離が近いのでは?と思ってチラリとルシスさんを見るも、至って真剣な表情なので私から何かを言う事なんて出来やしない。下手に動いて作業の邪魔にでもなったら、折角私の事を心配して診てくれているルシスさんに申し訳がない。

それにしても綺麗な顔してるな、なんてルシスさんを再び見ると、その視線に気が付いてか、不意にその黒い瞳が私を捕らえた。見られないとも思っていなかったが、こうしてこの距離で目が合うと息が止まりそうになる。

もはや、あ…とも、え…とも言えない私は、吸い込まれそうなその漆黒から目を逸らすことが出来なくなった。もう耳を澄まさずとも分かるくらいに早鐘を打つ私の心臓はルシスさんのその綺麗な手の真下にあって、聞こえてしまうだとか何だとかいうレベルではないのだ。
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