第5章 闇夜の調べ
ルシスさんによる魔力の性質説明講座に、正直そこまでピンと来てはいない。他人の魔力が混ざるとケンカしちゃうってことは何となく分かったが、それ以上分からないとも言えずに曖昧な返事をしてしまった。
でも、私のそんな考えも全て分かっているかのように、理解出来なくとも気にしなくていいとルシスさんは笑った。
「フフ、まぁそこまできちんと理解しなくても問題はありません。それでですね、今回あの天使のせいでその処置が出来なくなりまして、直接魔力を抜く以外方法がなくなったのです。とはいっても、対応はハイデスが引き受けてくれたので問題はありませんが、その際に調整して魔力を抜くという事が出来ず、貴女の持っている魔力全てを抜くことになります。なので、魔力がゼロにならぬよう、ある程度貯めて置ける器を用意する、ということですね。出来れば、その処置も今回済ませてしまいたいのですよ。」
「えと、やることは分かりました。何か準備など必要ですか?」
そう聞くと、私はいるだけでいいらしく、何だかそれはそれで緊張する。
「えっと、いつやりますか?」
「……可能ならば、今からでも。」
「え!今ですか?そんな、心の準備が……」
ニコリと微笑むルシスさんとは裏腹に、急な展開に思わず変な声が出そうになる。
思えば、初めてのルシスさんの家で、それにこんなにもルシスさんと二人きりの時間を過ごす事自体が初めてだ。どうしても緊張する。
「フフ、そんなもの必要ありませんよ。大丈夫、すぐに終わりますから……とりあえず、奥の部屋に行きましょうか。案内致します。」
通されたのは、用意された客室の奥にある寝室であった。
どちらもとても広くて美しい部屋だ。こんなにいい部屋を借りてしまって良いのだろうかとも思ったが、私自身も今はそんなことを気にしている場合でもなかった。
何せ、なんだか分からない処置を今からするのだ。
無駄に緊張してしまう。
「フフフ、そう硬くならないで結構ですよ。何も取って喰う訳では御座いません。」
こんなにも広い部屋の、扉の側で立ったままでいる私に、ルシスさんは少し可笑しそうに笑った。
「ですからほら、そんなところに立って居ないで、此方へおいでなさい。」