第5章 闇夜の調べ
「あ、あれ、何か……変な事しちゃいましたか?」
「いえ、相変わらずだなと思いましてね。人の家の執事に、そこまで気を遣う子もそういませんので、ね。」
ヴァルターさんは、夕食の準備だとかで、もう部屋を出ていた。
「え、そんな……ただ、お邪魔しているのに、なんかこう、名前も知らないのは気が引けますし……あの、あんまりそう言ったこと、言わない方がいいですか?」
「いいえ、決して悪いと言っているわけではないのですよ。ただ、彼等はあまり外の人間と関わる機会が無かったもので。こうして、私が誰かをこの屋敷へ呼ぶこともあまり無いものですから……。」
「え、そうなんですか?久々ってことですか?それって、どのくらい…?」
何とも無しに聞いてしまったその答えに思わず、ポカンと口を開けてしまった。
「はて……そういえば、どのくらいでしょうかね。アレをこの屋敷で使えてからは、初めてかもしれません。」
私が初めて?という事は、ヴァルターさんにとって私が一番最初のお客様だってことなのか!それは確かに、緊張するのも窺がえる。
「フフフ、誰も入れたことが無い訳でもないのですがね。私がこうして、きちんと客人として迎え入れ対応している姿はあまり見せませんので。」
客人として、じゃないのなら、どういった理由で人を呼ぶのだろう?等と思っていれば気が付けばもう食事の時間で、連れられたダイニングでまたこれ以上無い歓迎を受けた。
「ごちそうさまでした。こんなに沢山用意していただいて、ありがとうございました。」
「いえ、お口に合ったようで安心しました。」
膨れたお腹をさすりながら、満足感で一杯の私は何だか眠たくなってきてしまう。
「おや、眠たいですか?」
うとうとし始めた私に気が付いてか、ルシスさんが私の表情を窺う。
「す、すみません……お腹いっぱいで眠くなってきちゃったみたいで。でも、少しすれば落ち着くと思うので…。」
「ふむ、確かに少し眠るには早い時間ですが、先に部屋へ案内致しましょうか。もしどうしても眠いようでしたら、そのまま眠ってしまって構いませんよ。その時は朝湯を用意させますから。」
そう言って案内された部屋の簡単な説明をしてもらう。