第2章 1 箱庭
キラキラした彼は名前までキラキラしてるのか。
でも、セラフィム……どこかで聞いたことのある響きだった。
「セラフィム、さん……。」
「違うよ、アンリ。敬称はいらない。セラフィムって呼んで。」
でも、と言う私に首を振る彼はそれ以上の有無を言わせない圧があった。
「わかり、ました。」
「フフ、いい子だね……そうだ、お腹減ってない?」
言われてみれば、あの日の果物は食べ損ねたし、お腹の中はきっと薬くらいかもしれない。
小さく頷くと彼に頭を撫でられ、そのまま急に彼の顔が近付いた。
「その前に……ちょっとごめんね。」
首筋に顔を寄せられ、掛かる吐息と柔かな髪の毛が擽ったい。
彼の爽やかな香りにドキンと胸が高鳴るも、すぐに離れていった。
「ん、まだちょっとは時間ありそうだね。」
何だったの……??
訳が分からなくて、彼を見ても相変わらず笑っているだけ。
「あ、あの……時間って、何の、??」
「フフ、後で分かるよ。」
そう言って、彼がベッドから降りると同時に後ろの扉が開いた。
誰か他にも人がいるの?
そう思ったけれど、扉の向こうには誰もいない。
勝手に扉が開いた、?と不思議に思っていれば彼の困ったような声がした。
「ちょっと、いいところなんだから邪魔しないでくれる??」
そうして顔を出したのが、私のよく知ったあのキツネだった。
「っえ、うそ……この子……」
「フフ、随分こいつがお世話になっちゃったみたいだね。……君を連れ帰ってきた時から五月蠅かったんだよ?僕が抱えた君の姿見て取り乱しちゃってさ……自分のせいだーって、かなり落ち込んでたから。」
「えっえ、??」
確かに、この子に襲われて、びっくりして逃げ出して、それで森で襲われた訳だけど……
キツネを見るとしゅん、としていつもは真っすぐに立っている自慢の耳が垂れている。
「もしかして、この子言葉が通じるの?」
「ああ。お互いにその意思があればだけどね。」
まさかとは思っていたけど、そのまさかだったとは。
キツネは相変わらずこちらを切な気に見てくる。
「大丈夫だよ、ちょっとビックリしちゃっただけだから……。」
頭を撫でてやると悲しそうだったキツネの顔が一気に明るくなった。