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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ


「おや、私のせいですかね。ですが、随分と表情が明るくなりましたね。今朝はどこか浮かない顔をしていましたから、安心致しました。」

驚いた。まさか、そんなことを気に掛けてくれていただなんて。
確かに、セラフィムの事件の後は色々不安定だったし、ハイデスさんの心配や私自身のことで、少し気が張り詰めていたかもしれない。

「最近、そういった余裕が無かったってのも、あるかもしれません…。」

「まぁ、無理もありません。寧ろ笑っていろという方が酷な時でしょう。ですが、少し強引でしたが、連れてきて良かった。」

そういうルシスさんは、いつものどこか捉えどころの無い笑みを浮かべる。私は、そんなルシスさんを見て、自然と表情が和らぐのを感じた。

ルシスさんは落ち着いた空気、というよりももっと凛としていて、綺麗だしスタイルも良く姿勢も所作も全て完璧な分尚更オーラがあるから、私はいつも話す時はどうしても緊張してしまっていた。でも、今日こうして初めて長い時間二人で過ごしてみると、そんな必要も無かったのだと思える。
とは言ってもルシスさんはどこか掴めない空気で、底が見えない怖さはあるのだが、それでもやはり優しい人なのでは、と思わずにはいられない。

「ルシスさん……ありがとうございます。ルシスさんは、やっぱり優しいですね。」

「おやおや、私にその様なことを言うのは貴女くらいですよ。……アンリ、貴女のそういった素直なところはとても好感が持てますが、あまり人を信用してはなりませんよ。」

またそんな事言って、と思わずルシスさんを見た。すると、ルシスさんは少しだけ困ったように笑っていた。
そうしているうちに、執事さんが持ってきてくれたのは甘い香りのする小さなカップだった。

「これは……チョコレート、ですか?」

「ええ、ホットチョコレートです。寒い時期になると好んで飲まれる方が多く……好みに合えばいいですが。」

濃い目のチョコレートソースと、好みで割る用のホットミルクと小さなマシュマロが添えられている。
スプーンですくって口にすると、程よく甘いチョコレートが口いっぱいに広がった。カカオの香りも強くて、確かにこれはケーキを食べたくらいの満足感がある。

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