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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ


そうして隙間から差し込む夕日が、ルシスさんの瞳を赤く照らしているのが、あまりにも綺麗で、私は動くことが出来なかった。

あまりにも近い距離、私の頬を撫でる大きな手が、そっと唇をなぞった。

「ほら、アンリ……貴方が冗談だと思うのであれば、本当に冗談かどうか、試して差し上げましょうか?」

真っすぐに私を見つめる瞳から、目が逸らせない。まるで金縛りにあったかのように、体も動かすことが出来なくて、腰に回ったルシスさんの腕が、ぐっと私を引き寄せたことで更に体が密着してその体温すら感じた。
緊張と、恥ずかしさと、色々な感情でもう思考はショート寸前で質問の答えなんてものは勿論出てこなくて。このあまりにも綺麗な顔で私を怪しく誘うこの人から、目が逸らせない。

「フフフ、……これ以上は、可哀そうですかね。」

そう悪戯に笑うルシスさんは、ゆっくりと私を離す時、その私の唇を撫でる指越しに、ちゅ、と小さなリップ音を残し口付けては何事も無かったかのように離れていった。
ルシスさんの背中を目で追っては、今更になって音を立てて騒ぐ鼓動に気が付く。あのまま食べられてしまうのではという、恐怖とも言える感情の他にどうしようもない胸の高鳴りを感じてしまった私は、ぶんぶんと顔を横に振って気を紛らわせた。

どう考えてもルシスさんは私を揶揄ってるだけだ。私なんてルシスさんからすればちんちくりんな小娘に違いないのだからと、そう言い聞かせて気を取り戻した。

気が付けば執事さんが来てお茶の用意をしてくれている。
本当はお茶菓子を進められたんだけど、この時間に食べてしまったらきっと夕飯が入らなくなってしまうと言ったら、少し変わったものを用意してくれるらしく、楽しみだ。
此方へ、と手招かれて腰掛けたソファはゆったりとしていて心地が良い。ルシスさんと向かい合うように座ると、柔らかな笑みを向けられて少し気恥ずかしかった。

「フフフ、そう緊張しないで下さい。」

「だって、ルシスさんが変なこと言うから……。」

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