第5章 闇夜の調べ
「本当に広いですね。私、お城の中って初めて入ったけど、何だか探検してる気分で楽しいです。眺めもいいし、どの部屋の中も、すごく装飾も素敵だから。」
「おや、思いの外楽しんでいただけているようで良かった。まぁ、ここは特に古い造りになりますからね、尚更新鮮味があるのでしょう。もっと探検してもいいですが、地下室には入らないようにしてくださいね。」
「地下室まであるんですか?」
「ええ、普段は使う事はないですがね。あそこは少々……危ないので。」
危ないって、なんか実験器具とかあるのかな?なんて考えていたら、一つの部屋へ案内された。
「さて、ここがこの城で一番眺めの良い部屋になります。今は客間にしておりますので、ここで一休憩致しましょう。いくら転移陣で登ってきたとはいえ、疲れたでしょう?」
確かに、このお城の石段をずっと楽しく笑って登ってこられる程私の足腰は鍛えられていないので、ほとんどルシスさんが出してくれた魔法陣を使っての移動だった。とはいえ、まぁまぁな時間歩いていたので疲れは溜まってきている。
他の部屋よりも少し華やかなその客間からは、大きな窓の奥に先程見た湖と森が何処までも広がるように伸び、そしてその奥からは赤い夕陽が差し込んでいた。
「わぁ、すごい……!こんなに綺麗な夕陽、初めて見たかも知れません!」
「おやおや、可愛いことを仰る。私は貴方のその笑顔の方が、何よりも魅力的ですがね。」
「、も、もう……それはちょっと、冗談にしては言いすぎです…。」
窓に駆け寄り、夢中で外を見ては無意識に振り返って言った言葉。それに返された台詞に、思わずルシスさんから視線を逸らしてしまった。
「……冗談などでは、無いのですがね。」
ルシスさんの言葉はいつもそうだ。きっと私が一人でドキドキしている様子を見るのが面白くてからかっているのだ。
だから、意識しないようにと背けた顔に射す夕陽が遮られた事に気が付いたのは、ルシスさんの足元が私の視界に入る頃であった。急に引き寄せられる体と、少しでも動いたなら触れてしまいそうな距離の唇。背の高いルシスさんが、私に顔を寄せると自然と被さる様な体勢で、そしてさらりと流れる黒い髪が私の視界を遮った。