第5章 闇夜の調べ
そうして、背後に聳え立つ城を見上げるとまさに圧巻で、こんなところに住んでいるルシスさんは一体何者なのだと思わずにはいられない。ましてや、家主はルシスさんたった一人、使用人も数える程度しかいないというのにこんなにも広い場所に住んでいるという事に疑問を覚えた。
「すごい……ルシスさんは、何でこんなに大きなお城に住んでいるんですか?」
「そうですね、話すと少々長くはなりますが……森番の役割の為、でしょうか。この城は遠い昔、一つの小さな国を納めていた王城です。天女の呪いで滅びた王家の城を現在、私が任されております。これでも最低限の地位を頂いている身、何も持たない訳にもいかなくてですね。断っていたのですが、いつまでもそうと言ってられず、気が付けばこんな場所を押し付けられてしまいました。故に、今この王宮の背に当たる領土を不本意ながら任されております。」
貫禄があるお城だとは思っていたが、そんなに古いものだったとは。それにしてはかなり綺麗な状態で維持されているから、随分と手入れをしているのだろうという事がよくわかる。
「すごい、どの当たりまでがルシスさんの領土なんですか?」
「そうですね……ここから見える景色の、全てですかねぇ。」
「……へ?!」
「フフフ、驚きましたか?ですが、言っても殆どが呪いに犯された土地なのです。人が踏み入れることが出来ない、忘れられた大地。今は魔物が巣食う魔境と呼ばれております。要するに、魔境から魔物が出てこないように見張っていろ、ということですね。」
魔物。聞いたことが無いわけではないけれど、実際きちんと現実として意識したことはなかった。そんなものが、本当にいるのか。何だか、天使よりももっと現実離れしている気がする。
「な、なるほど、びっくりした……でも、魔物って、本当にいるんですね。あの、出てきちゃう事もあるんですか?」
「いえ、その様なことは一度も。この湖も私が作りました。結界により問題ないとは言え、物理的な距離があった方が人間は安心しますからね。そして、万が一に備え一軍は駐屯させられるようにと、この城を。」