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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ


「さぁ、いらっしゃい。足元には十分気を付けて。」

差し出された手を取ると、ふわりと体が浮いたみたいに抱き止められる。
あの日の夜会を思い出してしまっては、真っすぐルシスさんの顔を見れなかったが、構わないとでも言うかのように、ルシスさんは私をそっと地面に降ろすと小さく額に口付けた。

「人を招くことはあまりしないのですが……中々、悪くないものですね。」

ちらりと目を向けると少し悪戯っぽく笑ったルシスさんがいて、何だか恥ずかしくなった。
正面玄関は既に開かれていて、数名の執事さんとメイドさんの出迎えをうける。正直、この広さに対して随分と少ないように感じたが、ほぼ魔法で賄えるように色々と工夫しているらしく、最低限の人数しか屋敷には入れないのだとか。
確かに、そんなに大勢の人に囲まれているルシスさんというのも、ちょっとイメージに無いというか、人知れずひっそりと過ごしているような、そんな印象だったからすんなり納得してしまった。
中は、外の印象と違ってとても整っていて、まるで全てがこの日の為に誂えたかのように綺麗で、豪華絢爛というような雰囲気ではないが、上品で品がある。しかし緩やかな螺旋階段や扉等は古く趣きのある程に、深い色合い木製の家具で統一されている。けれども、これ見よがしな装飾というものは殆ど無く、クロヴィス家の方が派手なくらいであった。

「地味でつまらないでしょう?すみません、あまり装飾華美なものは落ち着かない性分でして。」

「いえ、とても素敵です。」

そうして、軽く屋敷の中を見せて貰うついでにルシスさんの案内のもと、とても眺めが良いと言う場所へ向かった。
そこは、メインホールとはまた別のアーチ状のホールから出たバルコニーだった。その扉が開かれた途端、目の前に広がる広大な景色に思わず息を飲んだ。

「わ、すごい!湖ですか?綺麗…。」

「中々の景色でしょう?ここからの眺めは、私も好きなんです。アンリ、貴女にも気に入って頂けたようで良かった。」

山の上に立つようなお城の後ろを、それはそれは大きな湖が囲っていた。この付近では、この場所が一番高いのに不思議だ。左右、両側に伸びた湖はその端が見えない程に長く、大きなものだった。深いエメラルドグリーンの水と、キラキラと輝く日の光に反射した水面がとても美しい。その奥には、深い森が何処までも続いているようだった。
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