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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ


「おや、そう言っていただけるのなら嬉しいですね。昔、古い城下町だったようですが、今では見る影もありません。人は皆、王都の方にしか行きませんから。ここは、王都から差程遠くはありませんが、カルヴァンの最端でもあるのですよ。ここから先は何もありませんから。」

そう言ったルシスさんの視線の先を見ると、岩場の剝き出しになった山肌が見えてきた。

「この上ですよ。少々寒くなりますから、こちらを……。」

受け取ったショールを羽織ると、確かに山を登っていくにつれて段々と空気が冷えていく感覚がする。
そうして、思っていたよりも馬車は早くに山を登り、辿り着いたそこで私は唖然となった。

目の前に大きな人工的な美しい滝、その両側をぐるっとアーチ状に伸びる長い石段。そして、その先にあったのは、高く、何故ここに上ってくるまで気が付かなかったのだろうかという程に立派な、古い城が立ちそびえていた。

「え、あれ?お城は明日では?」

きょとん、と丸くした目を閉じられないまま私が口にしたのはそんな恍けた言葉であった。

「フフフ、相変わらず、可愛らしいですねぇ、貴女は。……ようこそ、我が城へ。」

「え?ここが、ルシスさんの……?!」

否、そうなんだろうなと思っていたとも。まさかこの道すがら、あの会話達が全て冗談で、王城に先に来ちゃいました、なんてドッキリ仕掛けられたとは流石の私も思ってはいない。でも、まさかこんな明らかな城に住んでいるだなんて……否、あのルシスさんの事だから可能性的には充分あり得るだろうという事は予想していた。

しかしまぁ、本当にこんなあからさまな、威厳と貫禄に満ちた古城にお住まいだなんて。
期待を裏切らないと言えば確かにそうなのだが、如何せん似合いすぎる。この城の扉を開けた先、真っ赤な絨毯が敷かれた階段からルシスさんが降りてきたらもう心臓が張り裂けてしまう。
ヴァンパイアなんじゃないかってくらい、雰囲気たっぷりに登場して欲しいな、なんてどうでもいいことを考えているうちに、階段を登り切った馬車が正面玄関の前で止まった。

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