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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か


「やめろ、黙れ……、」

「ぁあ、思い出すと堪らないでしょう?何せ、この世界の人間の魔力全てを生み出した存在から、その力を直接己のものに出来るのですから。この世の力と快楽を独り占めにしたようなものです。」

「うるさい、ッ黙らないか!!」

あまりにも感情が昂って、制御の利かなくなった魔力が爆ぜた。
机に置かれたグラスが衝撃で砕ける。

同時に、この場所にいる筈のない、小さな悲鳴を聞いた。

シン、と静まり返る室内。

まさか、彼女に聞かれていた?
何故だとか、どうしてあの部屋から出ることが出来たのだとか、そんなことを満足に考えることは叶わなかった。そうするよりも前に、混乱する私を置いて気が付けばその声のした先、扉をルシスが開いたことにより、私は身動きが取れなくなる。
おずおずと、不安げに部屋へ入るアンリを見て、私はこの昂った感情を制御する事が出来なくなる。

先程の魔力の暴走により、己の体に掛けていた制御魔法が切れかかっていた。
たった一瞬、彼女と目が合っただけでぶわりと、体が何かの熱に襲われる感覚がした。
瞬間、ぐらりと傾く体。呼吸は酷く乱れて、何も考えられなくなりそうなのを、瞬時に制御魔法をこの体に掛けた。

そうして、ドクドクと音を立てる心臓の音を聞きながら、ゆっくりと平静を取り戻していく体を持ち上げると、大丈夫だと震える声を絞り出し、なんとかソファへ身を預けた。
今にも、正気を失いそうなこの意識を制御しようと、頭を下げてゆっくりと息をする。

大丈夫だと、そう言い聞かせていると不意に、隣にその酷く求めて止まない気配を感じた。

ルシスのやつ、わざと彼女を隣に座らせたな。

再び音を立てて騒ぎ立てる鼓動を、何とかして黙らせながら奥歯を噛み締めた。
ルシスの言った悪魔の囁きが私の頭の中を巡る。うるさい、黙れと、何も考えるなと言い聞かせた。

だが、残酷にもそうしている今この瞬間にも、じわりと彼女の魔力が私を犯していく。
どうしようもない事実を、突きつけられているようだった。

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