第4章 3 夢か現か幻か
「初めから、そのつもりだったのか…?」
この男は、最初から全て分かっていた。
いいや、私は、この男にいいように使われていただけだったのだ。
彼女に出会うその前からずっと、私は、この男の掌の上であったのか。
握りしめた拳が震えた。
「……誰だ?どいつと手を組んでいる。彼女をどうするつもりだ?」
「それも、お前には教えられない。……安心なさい。悪いようには致しません。私が、大切に保護いたします。」
「本気で、私から彼女を奪うのか、?ふざけるな、私がどんな思いで…!!」
声を荒げさせて叫ぶ私に、我慢ならないとでも言うかのように、この男は人を食ったような笑いを見せた。
「フフフ……面白い。一体どんな思いだというのです??」
目を細め、怒りに震える私をなじるかのように見詰めながらゆっくりと立ち上がると、気が付けば見下されているのは私の方で、その圧倒的威圧感に一瞬押し負けそうになる。
「お前はもう彼女の本当の味を知ってしまいました。天女を喰らう、その快楽の味を……果たして、今まで通り彼女に接することが出来ますか?もう既に声を聞き、彼女を見ただけでお前の熱は我慢ならないのでしょう…?」
「なっ…ち、違う…!」
「いいえ、何も違う事など無い筈だ。相当強い鎮静剤を飲み、それだけでは飽きたらず制御魔法をその身体に幾重にも掛けているというのに。今だって立ってるのがやっとなくらいに気をやられているではありませんか。それくらい、彼女を大切にしたい筈が、何よりも最低な行為を彼女にしたいと思って堪らないのでしょう?彼女の魔力を根こそぎ喰らったら、どれ程の快楽を得られ、どれ程の力を手に入れられるのか、もう考えられずにはいられないのでしょう?」
耳元で囁かれる、悪魔の様な言葉に、眩暈がした。嫌でも想像してしまうその行為に、唇を噛み締める。そうしてまた、この体の中で彼女の魔力がゆっくりと溶けていく。
「…ッ、黙れ!誰が…、くそっ!!ルシス……貴様、私をはめたな?!」
「おや、聞き捨てなりませんね。私はきちんとその役を選ぶ権利を与えましたよ。私が代わりとなる選択肢もあったが、お前は譲らなかった。私ですら夢に見ますよ?彼女は果たしてどれ程甘い魔力で満たしてくれるのか……それを味わったお前が羨ましくて堪りません。」