第4章 3 夢か現か幻か
応接間に現れた私を見て、ルシスが意外そうな目を向けてきたが、その理由は分からなかった。
ドサッと無造作にソファに腰を下ろすと、思いのほか、息が荒い。
「……どうです、体の方は。」
「、……気が狂いそうだ。」
「その意識がありながら、こうしていられているのは立派ですよ。捕食により得られる魔力は、ただの魔力ではない。その人物の生命エネルギーにも近いものだ。今回彼女から喰らった魔力を全て取り込めたなら、その魔力量は現王に並ぶかもしれませんね。」
「どうでもいい。そんな事、どうでもいい……。」
「いいえ。奴から彼女を守りたいのであれば、必要なものですよ。」
「…、ッハ!なんだ…?私は、彼女を守るために、彼女を喰らうというのか!なんて馬鹿げている!?そんな事、何になる……何の為になるというのだ…。」
私は投げやりに天井を仰いだ。
「……奴は、彼女の何なのだ。彼女はあの化け物をセラフィムと、そう呼んでいた。」
「……熾天使セラフィム。奴はこの世界に、アンリ嬢を召喚させた張本人です。」
「なんだって、?」
思わず、ルシスの方に身を乗り出した。
「あの男が、アンリを天女に選んだのです。何故彼女だったのか、その理由までは分かりません。ただ、随分と気に入っているようですね。彼女の言う記憶は紛れもない本物でしょう。既に彼女は奴と繋がっているということも、全てね。」
彼女を、天女に選んだだと?天女がこの地に召喚されることは理解していたとしても、その選別があるというのか?
そして、何故この男はそんなことを知っているのだ。世界の理の欠片を、さも常識だとでも言うように口にする、この男こそが、私には化け物に見えてきた。
そうして、彼女が言っていた言葉が今になって思い起こされる。
「ルシス……アンリは、誰かに自分の記憶を消されたのだと言っている。天使がそう言ったのだと。本来は、ここへ来る筈では無かった、あの天使の元から離れる手はずは無く、途中何者かの介入があったと。」
一言一言、ゆっくりと言葉を繋げる。心臓が静かに音を立て始めていた。
目の前の漆黒を纏うこの男は、何も答えない。
「そうして、彼女は突然私の前に現れた。ルシス、お前、何か知っているのだろう?」