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私を愛したモノなど

第4章 3 夢か現か幻か



ゆっくりと息を吐き、立ち上がると部屋を出るルシスの背を見た。
己の情けなさと、この男の良いように動かされている事に、苦虫を噛み潰したような思いであった。
しかし、今の状態のままこの部屋に残るというのも正直またいつ正気を失うのかという不安に襲われるのも確かだ。

「……アンリ、何か飲み物でも持ってこようか。他に、必要なものはあるかい?」

なんとも下手な言い訳を口にして一度頭を冷やしたい私はこの部屋から出ようとしたが、そうして投げかけられる言葉に思わず彼女の顔を見た。
具合が悪いのかと、心配そうに私を見る彼女に、私はやっとまともに向かい合った気がする。
純粋に私を気遣うその瞳に、己はそんなにも情けない姿をしているのかと一瞬狼狽えた。

いや、ならば尚更、これ以上彼女に心配をかけさせる訳にはいかないと、出来る限り優しく笑って見せる。そうして出た部屋の先でジェイドが待っていた。
私は彼女の無事を伝え、この慣れた廊下を進む。

不意に、ぐらりと視界が傾いた。

「、ハイデス様…!!」

支えられて、意識なくこの体がよろめいたのだという事に気が付く。
ガラス戸に映った己の姿に、今の自分が、周囲にどんな姿を晒していたのかという事を知った。

「このままでは、本当に戻れなくなります……一度、城の医師に見せましょう、あそこの医者ならば何か方法が…。」

「駄目だ。奴らは喰らった人間を数多く見ている。だからこそ、隠し通せるはずがない。あれはドープした人間が、態々検査機関に行くようなものだ。……それに、見せたところで何も変わらない。」

「ですが、……」

「ジェイド、これは、彼女にも言うな。」

「そんな……黙ってどう説明しろと?風邪だとでも言うおつもりですか!」

「……言うな。何も。」

「、何故……!」

「何度も言わせるな。彼女に、今回の事は一切伝えるな。例え聞かれたとしても、お前からは何も言うな。」

「ハイデス様。それでは……」

「いい。それでいいんだ。」

何か言いたげなジェイドを、一方的に黙らせた。
彼女には、何も伝える気はない。何一つ、一切の曇り無く、彼女が笑っていられるように。

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