第4章 3 夢か現か幻か
暴走する魔力のみ捉えて封じ、そしてゆっくりと再び己の中に戻すなど。しかし、あの手の研究に、ルシスが一枚噛んでいた事を思い出した。
いや、まさかなと思い、今はこの身体と向き合うことに集中する。
だご不意に襲われるアンリの魔力が私の中に溶けていく感覚に、どうしようもない気持ちにさせられる。
一滴の想いがぽたりと落ちていくような、今はそんな感覚だが恐らくこれはそんなに穏やかなモノではない。
当分付き合っていくであろうそれにグッと覚悟を決めるとベッドから降りて身なりを整えた。ジェイドに、まだ寝ていろと止められたが、もう充分眠ったと断り部屋を出た。
向かったのは勿論アンリがいる自室で、ルシスが掛けたであろう結界を解き、控えていたメイドを出させ戸を閉めた。
静かに寝息を立てるその姿を見ただけで、まるで心臓が跳ねたかとすら思ったが、一度大きく息を吐き静かに側に移った。御丁寧にベッドサイドに中身の入った薬瓶が並べられていた。
ジェイドか、あるいはルシスか。
ジェイドならば分かるが、アイツがこの部屋に勝手に入ることは出来ない筈だ。ならばルシスかと思ったが、あの男にそんな私を気遣う心があるのかと思ったが、それ以上は考えたとて無駄なことだと瓶を一つ呷った。
彼女を見てまた燻りそうな熱が幾分か抑えられた。だが立て続けに飲みすぎて、吐き気こそまだ無いが、時折震えが起きるのを、状態異常魔法やら制御魔法やらを己に重ね掛けし、何とか平静を保つ。
あの行為は彼女の為だと言ったが、果たしてそうだっただろうか。
私は、例え彼女を助ける他の手立てがあったとして、それを選んだろうか。
そっと、彼女の手に触れた。
己の問いにすら答えられぬままの私は、ただ彼女が無事に目覚めてくれることを祈ることしか出来ない。時折襲い掛かる衝動に、ギシリと奥歯が音を立てるのを感じながらも雑に薬を飲み干していく。これ以上は本気でジェイドが発狂するなと思いながらも私はこの場所を動こうとしなかった。
ぼやけた視界がぐるりと回るのを眺めては、それ眩暈か微睡みか、もう、分からなかった。どちらによるものなのかすら分からない、録に動かぬ頭で、アンリの変わらぬはにかむような笑顔を思い浮かべる。そうして、そっと触れた彼女の手の確かな温もりを、決して離さぬようにと握りながら気が付けば自分も目蓋を閉じていた。